中村融編「千の脚を持つ男」

20070108195529[1] 千の脚を持つ男
 シオドア・スタージョン他 中村融編
 創元推理文庫






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 さて、今回ご紹介させて戴きますのは、近年、創元推理文庫を中心に、「街角の書店」、「夜の夢見の川」など、SF・ホラーなどのジャンルで次々と名アンソロジーを編纂されている翻訳者、中村融編の怪物ホラー傑作選、「千の脚を持つ男」になります。

 怪物といえば、私も「ウィアード・テイルズ」に倣って創刊しました同人誌、「DAMMED THING Vol.1」で、テーマを怪物にしましたが(一つ妖怪ネタも混じっていたような…)、怪物ネタの場合、お話自体のアイデアを考えると同時に、どんな怪物を創造するかという怪物のアイデアも同時に問われるのだなあ…という印象を持ちました。私の場合は、何とも苦し紛れだった、甘い記憶があります。という訳で今作なのですが、お話良し!怪物良し!と、バラエティに富んだ怪物テーマの短編が10編揃っております。おそらくこの一冊で、怪物のカテゴリが一通り敷衍できるのではないかと思うような、素敵なアンソロジーです。
 編者が巻末に解説を記しておりますが、それによりますと、本作は編者が幼少期の頃に多大な影響を受けた、「ウルトラQ」を、紙面で再現したかったのだそうです。

 
 巻頭ですが、実にオーセンティックな怪物である、不定形の怪物(スライム、ブロブと呼ばれているあれですね)を扱った、ジョゼフ・ペイン・ブレナンの「沼の怪」から幕開けです。深海で悠久の昔から存在する不定形のそれの生態を克明に記した、非常に長い時間軸の描写から始まった冒頭から、アメリカ西南部(?)の沼の近くの近隣住人の逸話へ移る間の、急に身近な展開になったな、という強引な接ぎ木感が、妙に愉しい一編です。沼に潜む怪物が次々と人間を喰らい、警察が出動し…と、展開自体も極めてオーセンティックで、冒頭に打って付けの作品だと思います。

 個人的印象ですが、作中一番面白かったのが、SF界の大御所シオドア・スタージョンの「それ」です。ある森の腐葉土から発生した怪物を扱ったこの作品ですが、森に住む一人娘のいる夫婦と、夫婦の営む牧場を手伝う夫の弟の四人がそれぞれバラバラに行動して、怪物に遭遇する過程が、三人称多視点の描写の中で、実にスリリングに展開する、没入度では群を抜いて際立った一編になっております。
 また、秀逸なのが、おそらく他ではあまり見ないような怪物の概念で、やはり怪物自体のアイデアということになりますと、SF小説家のそれは非常に秀逸であり、なかなかホラープロパーな小説家にはない発想の仕方をするものだと、改めて思わされました。怪物は民俗学的アプローチにも、科学的アプローチにも、両方良く映える存在です。一時期隆盛を誇ったディーン・R・クーンツにしましても、元々はSF小説家だったのですし、この分野に多くのSF小説家が参入して欲しいと、切に願うばかりであります。

 怪物の気持ち悪さという点では、R・チェットウィンド=ヘイズの「獲物を求めて」が一歩抜きん出ております。怪物を描く上で一つの大きなポイントが、どれほど生理的嫌悪感を際立たせられるかかと私は思いますが、この小説の怪物は、個人的印象ですが、実に厭なフォルムをしております。少し人のよすがが残っているというのが、本当に厭です。お話自体もある有名なモンスターを扱った変種の小説で、捻った設定も作品に一役買っていると思われます。

 標題にも使われました、「千の脚を持つ男」の著者、フランク・ベルナップ・ロングですが、この人は筋金入りの米国パルプ誌作家で、「ウィアード・テイルズ」の代表的な寄稿家の一人でもあります。編者によりますと、ロングは「怪作王」の称号を謹呈したい小説家だそうでして…まあ、全く仰る通りで、二言もございません…。
 そのせいか、編書中でこの人の小説だけが、明らかに他の小説からは浮いた妙なちぐはぐ感と、独特の熱量と強引さを感じさせ、そういう意味では一際目を引く、めくらましのような一作になっていると思います。この小説が執筆された1920年代後期は、既に米国パルプ誌は百花繚乱を迎えており、特にSF・ホラー系では、マッドサイエンティストの身勝手な探究心が、とんでもない悲劇を生むという小説が、それこそ雲霞のごとく発生したのですが、たいていそこで描かれるマッドサイエンティストは、根本的に思慮が浅く、とても頭の良い人に見えないのが、何とも面白いと思うところです。
 勿論、「怪作王」(笑)が満を持して放った、作中の科学者の頭が良いはずもなく、この人が奮闘すればするほど、事態は雪ダルマ式にとんでもない状況を迎え、ひょっとして、これは新手のギャグなのかなと思うほど、痛快で面白い一作になっております。この小説は、まだ未読の方がおりましたら、是非ご一読願えればと、心から祈念するところであります。

 そして、巻末で編書をきっちり締め括ってくれるのが、こちらも英国SF小説の大家、キース・ロバーツの力作自動車ホラー、「スカーレット・レイディ」です。意志を持つ機械というのは、立派な怪物の一種であると、この編書では位置付けられておりますが、この小説の自動車の忌わしさは相当なものです。私はこんな車には、絶対に乗りたくありません。あまり書きますとネタバレになるのであれですが、自動車全体どころか、部品の一つ一つまでが周囲に災厄をもたらす辺り、相当強烈な“意志”を持った自動車です。また、主人公の職業が自動車修理工というのが実に秀逸な人物配置で、私は疎いのですが、作中の大半を占めるメカニック描写を交えながら、修理工の観点から見ますと、この異形の自動車の異形ぶりが、より一層際立ってくるという、読み応えたっぷりの力作に仕上がっております。

 怪物はパターンをカテゴリ化してしまいますと、おそらく究極的には十指に満たないと思いますが、大事なのはあくまで描き方とツイストであると、読みながら再確認させて戴きました。そういう意味では、カテゴリの少なさとは無縁に、今後も素晴らしい怪物ホラーを生む余地はまだまだあると思われますし、私も「犬と老人」という短編でけっこうしつこく怪物を描いたつもりですが、まだまだ全然足りていないと思うのが本音です。
 実は「犬と老人」は、「怪物がバリバリ人を喰いまくる」お話にしたかったのです。結果はそうはなりませんでしたが、今度こそそういうお話を思い付きましたので、しっかり下準備をして、いつか書いてみたいなという意欲を触発された読書体験でもありました。私にはSFマインドは皆無ですが、手持ちのホラーマインドで、何とかこの怪物をものにしたいと思っております。
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