カーステン・ストラウド「ナイスヴィル 影が消える町」(上下巻)

20070108195529[1]20070108195529[1] ナイスヴィル 影が消える町(上下巻)  
 カーステン・ストラウド
 ハヤカワ文庫






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 このカーステン・ストラウドという小説家ですが、カナダ人で、「狙撃警官キーオウ」など、主に警察小説を書いてきた人だそうです。その彼が始めて書いたホラー小説が、今回紹介するこの「ナイスヴィル」で、このシリーズは全3部作になっています。3部ともハヤカワ文庫から出版されています。

 ナイスヴィルとは、作品の舞台になっている、アメリカ南部の架空の町のことです。ナイスヴィルは、全米の平均の5倍もの行方不明者が出る町でした。この小説の序章は、不可解な状況で行方不明になる、ある少年の捜査の顛末から始まります。そこから長い本編が始まるのですが、話は急に1年後に飛び、序章の少年の行方不明の事件以外にも、大小様々な事件を挟みながら、主人公の警官たちが、ナイスヴィルという町に潜む、葬られた歴史に徐々に迫っていく――というのが、お話の骨格になります。

 読んで驚かされるのが、序章と本編の落差の大きさです。序章は少年の捜査を続けるうちに、通常ではあり得ない不可解な状況が示されるという、真っ当なホラー的展開を迎えますが、続く一年後では、いきなり銀行強盗犯を追うパトカーを、共犯者が狙撃するシーンから始まります。いきなり犯罪小説そのものの展開になり、読んでいて、「あれ?」となります。以降、続く本編も、完全に犯罪小説色の方が強く、悪党たちが互いを出し抜く丁々発止のやり取りが延々と描かれ、ホラー的要素はあくまで添え物といった印象です。普通、ホラーを謳うなら逆のバランスで然るべきところを、まるでエルモア・レナードの世界を読まされているような気分にさせられるところが、この小説のけったいな点です。

 
 この手のジャンルミックスにも、様々に噛み合わせがあると思いますが、少なくともこの小説を読む限り思うことは、猥雑な犯罪小説とホラーの噛み合わせは極めて悪い、ということです。犯罪小説では、たいていの犯罪者は、ハードで視野の狭い自分の境遇をいかにリアルに生き抜くか、という現状認識になりがちですが、この身も蓋もない生活に根ざしたリアル感と、融通無碍を基調とするホラーの世界観が、全く相容れないのです。「身近な幽霊より、身近な殺し屋(明日の破産)の方が怖い」と言われれば、確かにその通りかも知れませんが、そうなるとたいてい身近でリアルな墜落の方が、どうしても説得力を持ってしまう…そういうことだと思います。

 著者は、自らが得意とする犯罪小説や警察小説の世界に、ホラー的世界観を持ち込んだら、きっと面白いに違いない、という考えが元にあって、このシリーズを書き始めたと、私は勝手に想像しますが、もう少しその結果について考慮して欲しいと思いました。批判を承知で言いますと、この著者にはホラーへの適性がないと感じられます。上手く言えませんが、ホラー小説には、ホラーをホラーたらしめる雰囲気や香気のようなものが、否応もなくあると思います。型通りにホラーのルーティンを踏襲すれば、ジャンル分類上、それは確かにホラーのカテゴリには入るのですが、それはあくまで型をなぞっただけであって、この小説にはそれを成立させる核が欠落しているように、私には感じられました…この小説を読みながらずっと考えていたのは、ホラーをホラーたらしめる何かについてでした。それが上手く言えれば、こんなにいいことはないのですが。作中の登場人物の(或いは読者の)リアルな現状認識を覆す、非論理的(超常的な)な忌わしさを、ある種の皮膚感覚として描き得るのか…それだけでもないと思いますが、あくまでこういう部分がホラーとしての基調になるのではないかと、私は思います。

 今回、私はかなり批判的に書いてますが、当ブログはホラー小説の紹介サイトではなく、個人的主観を綴ることを主旨としていますので、ホラーについて自分なりに考える契機として、今後も中には批判する小説があるかと思いますので、一応ここで述べておきます。

 この著者が全くホラー向きでない、もう一つの理由として、作中の登場人物の大半が、または親戚や友人を含めても、警察関係者ばかりなのです。私の日常では、警察関係者の親戚はいませんし、ご親族に警察関係者がいる友人が一人いるくらいです。本当にこの著者は、そういう世界に近い環境にいる人なのだということが、こういう部分から分かります。でしたら、素直に自分の資質を発揮できる、そういう世界の小説に邁進した方が良かったのではと、読みながらずっと思っていました。因みに犯罪小説として見た場合、私はこの分野に詳しくなく恐縮ですが、展開は山あり谷ありと起伏に富み、その人種のハードな世界観もよく描かれていて、そこは愉しく読ませて貰いました。因みに、私はこの続きは読まないと思います。
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