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澤村伊智「恐怖小説 キリカ」

20070108195529[1] 恐怖小説 キリカ
 澤村伊智 
 講談社






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以前、記事をアップしました「ずうのめ人形」の著者、澤村伊智の三作目のホラー小説になります。
今作は、「ずうのめ人形」とは、全く違った恐怖に挑んでいて、「ずうのめ人形」とは異なった面白さと、
「ずうのめ人形」にも共通する、この著者の資質的な面白さ(怖さ、と言ってもいいと思いますが)が混在した、
非常に面白い小説でした。本当にこの著者は、何を書いても大丈夫なんだと、意を新たにさせられました。

前作と共通する、著者ならではの面白さですが、まずはやはり何と言っても、展開の運び方の面白さだと思います。
しかもこの著者は、その筋運びの随所(特に物語の転換するところ)に、ある種の叙述的な仕掛けを用いてくるので、
この面白さを書くと、単純に未読の読者の方には、ネタバレになりますので、詳しく書けないのですが…。
ある種、映画的と言ってもいいくらいの構築ぶりですが、一方、叙述的な仕掛けは、小説だからこそできることでもあり…。
この辺りの匙加減が、ちょっと他の小説家にはない、著者独自の強みという気がします。
また、既存の他者の小説を大きく取り上げる、という手法は今回も健在で、それをより堂々と推し進めています。
これもネタバレに相当しますので、詳細は控えますが、「ずうのめ人形」で、個人的には感じた違和感どころか、
今作では、「え!ここまでやるの?」という感じで、これには素直に驚きました。
何事も突き抜けるくらいに、堂々と推し進めると、それは何かしらの効果があるものだと、改めて思わされました。
(ちょっと今回、ネタバレを回避するあまり、何言ってるのかさっぱり分からん、という感じで、大変申し訳ないですが…。)

で、今作で、著者が新たに挑んだことですが…。
これこそ詳細な説明をすると、完全なネタバレになってしまうのですが…。
これは述べても問題ないかなと思いますので、簡単に書きますと、今作で著者が挑んだのは、メタフィクションの手法です。
何しろ冒頭が、著者自身が、「ぼぎわん」(後に「ぼぎわんが、来る」に改題)で、
日本ホラー小説大賞の、大賞受賞の告知を受ける場面から始まりますから。

余談ですが、私は残念ながら、「ぼぎわんが、来る」を読む前に、今作を先に読んでしまいましたが、
少なくとも、この小説に関しましては、「ぼぎわんが、来る」は、先に読んでおいた方がいいかと思います。
「ぼぎわんが、来る」執筆の裏話がかなり出ますので、先に読んだ方がより面白いと思います。

話を戻しまして、メタフィクションですが、メタフィクションで思い出すのが、以前記事を書きました三津田信三ですが、
三津田信三のメタフィクションは、主に話の導入部と、その小説の話者(主に一人称の口語体)を設定する為に、
用いられることが多い印象ですが、
今作でのメタフィクションは、著者自身の身近な現実と、作中の不穏な創作の、虚実の皮膜が次第に曖昧になり、
現状認識に揺さぶりをかけるといった、従来型のメタフィクションで多く用いられる手法になっています。
このような入れ子構造は、複雑化すればするほど、その入れ子構造の構築自体に、
小説の力点が向かいがちな側面があるかと思われますが、この小説の素晴らしいところは、その入れ子構造が、
あくまで、この小説が目指す恐怖を、より鮮明化する為に用いられていて、主軸がブレていない点だと思います。
そういった手法を主軸にして、今作が目指した恐怖は、はっきり作中で提示されていますが、
それは書いたらあかん、と思いますので控えます。興味のある方は、是非お手にお取り下さい。

私は小説を読みながら、この著者は一体どうやって、このお話を創っていったのかなと、
真偽のほどはともかくとして(多分、偽の方が遥かに多いと思います)、自分なりに想像するのが好きです。
では、この小説はどうだったのかな、とも考えてみました。以下は、根拠不明の完全な憶測になります。
まず、手法が先か、主題(この場合、今作が目指した恐怖の形)が先か、ということがあると思いますが、
今作の場合、私は主題が先にあって、それをいかに伝えるかということで、メタフィクションがきたのでは、と思いました。
このような、ある主題(必ずしもテーマとは限りませんが)が軸にあって、それを狙い通りに伝える為に、
基調の手法や、お話の展開や、ディテールを決めていくというのは、実に王道的な、物語の創作作法だと思います。
作法は王道でも、展開の仕方や、ディテールの配置などが独特ですので、この著者の小説は面白い、
というのが、現時点での、私の勝手な憶測です。

「ずうのめ人形」では、伝播する恐怖を描き、今作では、また違った恐怖に挑んだのですが、
これは批判でも何でもありませんが、それを読んで私は、この著者は無数の引き出しがあるなあ、とは感じませんでした。
今作が目指した恐怖それ自体は、決して目新しいものではないと思いますし、他の小説家も散々やっています。
変な喩えかも知れませんが、今更スティーブン・キングに、「ネタが新しくない!」と、怒る人はまずいないと思います。
そうではなく、それをキングが書いた、ということの方が、大事なのだと思いますが、
私がこの著者は何を書いても面白い、と感じたのは、そんな感じがしたからだと思います。
主題が既存のものであっても、この著者なら、今まで読んだものとはまた違ったアングルで、それを見せてくれるのでは…。
そういう期待が、あるからだと思います。
同じ時代に、同じ国に生きているという、同時代性を感じる、素晴らしい小説家と出会えた、という気がします。
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