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レイ・ラッセル「インキュバス」

20070108195529[1] インキュバス 
 レイ・ラッセル 
 ハヤカワ文庫NV






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この小説ですが、一言で言いますと、エロいホラー小説です(という割りには、さしてエロくもないのですが…)。
題名になっていますインキュバスとは、キリスト教圏の経典で記された、女性を誘惑する男の色魔のことで、
男性を誘惑する女の色魔をサキュバスと言います。
お話ですが、さるアメリカの田舎町で、次々と暴行された女性の遺体が発見され…というものです。

当然、題名にもあるインキュバスの存在が、作中で大きく浮上してくるのですが、
長編モダンホラーのセオリー通り、インキュバスの存在究明に、多くの筆が費やされることになります。
通常の、怪異の存在究明の方法としましては、おおよそ以下の感じだと思われます。
①科学的見地での状況検分。②古文書などを参照に、古来の伝説や風聞と事象の照合。
実際にこの小説でも、先の①②の双方で究明が行われます。

ネタバレになるので、詳しく書けませんが、①での法医学者の検死結果は、一読の価値ありと思います。
ものすごい状況ですから…。私は喫茶店で読んで爆笑しました。男性読者なら分かると思います。

話を戻しますと、究明の過程で、医者、警官、人類学者などが、喧々諤々と意見を戦わせるのですが、
この小説の特徴的な点は、怪異の存在を疑うあまり、それが背理法のドツボに落ち込んでいく点にあります。
「インキュバスがいるとすると、これこれの矛盾が生じる。故にインキュバスはいない」
「インキュバスがいないとすると、これこれの状況が説明できない。故にインキュバスはいる」
そんな難しい話でもないのに、何故にそんなややこしいことを…?

私は、解明の過程において、従来型の、「ただ単に信じ難い」という頑迷な否定から、
存在を何重にも否定して、存在の仮定自体疑わしくなる、という、新たな常識の壁の築き方が、
従来型の存在否定から、一歩前進した感があって、そこが面白いと感じました。
ここがより先鋭的になれば、それはまるで、ディックの悪夢のSF世界のようではないですか。
惜しむらくは、その背理法の応酬と、作中で起こる出来事が、あまり上手くリンクしていると思えなかったことです。
確かにそれもそうで、この小説は別に、現実認識の揺らぎが主題ではありませんから。

(以下、ネタバレ含みます。ご注意を!)




読むうちに、どうやらインキュバスは、普段は町で普通に暮らす人間なのですが、
興奮状態になると変身するらしい、ということが判明してきまして、
一体誰が…という、フーダニット的な展開になるのですが、その方向性が間違っている、と感じられました。

何故、こんな展開になったのかと考えますと、それはインキュバスの設定に失敗したからだ、と思います。
この小説でのインキュバスは、夜な夜な女性を襲う犯罪者となんら変わらず、
行動原理がまるで、男性優位主義を誇示するだけの、男の人間の如しです。
せっかくの色魔なのですから、内面的に(夢魔的に?)、町の女性たちを籠絡させる存在であった方が、
ホラーとしても面白い展開が望めたと思いますし、エロかったのではないか、とも思います。

作風は王道的な展開で、それなりに読ませるのですが、
伸びしろのある部分と、伸びしろを摘む部分の混在した、全体的には、ごつごつした印象の小説だと感じました。
最初に町の情景描写があって、そこには美女が多い、とつらつら紹介されていた時には、
何だか、設定が随分露骨だなあ…と、面白く感じましたが。
こういう設定一つを取っても、マチズモの思想が濃厚な、極めて男性的なホラー小説だと思います。

続けて次回、サキュバスではありませんが、女性の書いたエロいホラー小説を取り上げたいと思います。
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Author:WORLD BEANS
ホラー小説専門同人誌、
「DAMMED THING」告知用ブログです。
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