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スティーヴン・キング「呪われた街」(上下巻)

20070108195529[1]20070108195529[1] 呪われた街(上下巻)  
 スティーヴン・キング 
 集英社文庫






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前回の、ブラム・ストーカーの「吸血鬼ドラキュラ」の記事の最後に少し記しました、
今一つの吸血鬼小説の決定打は、何といってもこの小説だと私は思います。
この小説は、吸血鬼小説の決定打であるだけではなく、モダンホラーの一定型を確立させた、記念碑的作品だと思います。
この小説のことはどれだけ褒めても褒め足りないほど、作品も素晴らしく、後世に遺した影響も絶大だと思います。

「吸血鬼ドラキュラ」から、「呪われた街」までは、約100年の開きがあり、その間に吸血鬼やドラキュラは、
誰もが知るところとなり、下手をするとパロディにしかならない状況であることは、誰もが把握していたと思いますし、
賢明な作家なら、吸血鬼を新釈を与えるなど、吸血鬼のパターン拡張の方に向かうところを、
ただ一人、キングだけが、本気で「吸血鬼ドラキュラ」に、真っ向勝負を挑んだのではないでしょうか?
(他にもそのような作品があったら、寡聞にして恐縮ですが…)
「吸血鬼ドラキュラ」に倣って、キングがこの小説で果たそうとしたことは、ガチで怖い吸血鬼の復権という、
その一点に尽きると思います。

で、この小説の吸血鬼ですが、本気で怖いです!
怖いのは、吸血鬼が凶行に及ぶ瞬間ではなく、そこに吸血鬼がいる…、という、この世ならぬものすごい瘴気です。
特に、二階に吸血鬼がいるのに、十字架を握りしめたまま、怖すぎて階段を登れない教師のくだりなど、
教師の恐怖感が、読んでいるこちらにも嫌というほど伝わってきます。何というキングの筆力!

突然ですが、フィクションでの怖さは、なるべく(主観や考え方などの)個人差が少ない方がいいと思うのです。
万人を怖がらせるのは不可能だとしても、最大公約数的に怖がらせられれば、それは成功している、という考えです。
この小説の吸血鬼が怖いのは、登場人物の怖がり方が、尋常ではないほどリアルだからです。
密閉下でパニックが伝播するように、恐怖も上手く描ければ、それはちゃんと伝播すると、私は信じたいです。
そういった意味でこの小説は、フィクションでできる怖さが、正当な手順で、ほぼ完璧に描かれていると思います。

そして、その恐怖をリアルなものにする為に、キングが取った手法は様々にありますが(固有名詞の氾濫など)、
中でも、最も効果的で、魅力的な方法が、現代(といっても、今からもう40年以上前ですが)の、
アメリカの南西部の田舎町に、吸血鬼を引っ張り出してくることで、これで、一つの田舎町が吸血鬼に侵略されて、
人知れず崩壊する…という、ホラーの舞台設定としては、これ以上ないほど魅力的な舞台装置を作りました。
また、これを何人かの主要人物はいるものの、三人称多視点で描いたことが、また効果抜群だったと思います。

平井呈一が、モダンホラーについて、「現実にいきなり異世界の裂け目を作る」と評したことがありましたが、
極めてリアルに描かれた田舎町を浸食する吸血鬼とは、異世界の裂け目の最たるものだと思います。
実は私は、キングの最大の功績は、怪異で滅ぶ街という、モダンホラーの一定型を確立させたことだと思います。

「吸血鬼ドラキュラ」に真っ向勝負を挑む決意と、それを成立させる地力は、誰もが持てるものではないと思いますが、
吸血鬼ではない、オリジナルの怪異で、一つの街を滅ぼすことなら、自分にもできるかも知れない…。
キングの意図かどうかは別としても、後進のホラー作家たちに与えた希望もまた、非常に大きかったように思います。
私は個人的には、クトゥルーもののフォローを読むなら、滅ぶ街の作品の方が読みたいですし、
自分でもいつか書けたらなあ…と、今でも、夢見るような気持ちで思うことがあります。

また、昔は、古い吸血鬼映画などを見ていますと、とっくに原因が吸血鬼だと分かっているのに、
ああだこうだと原因を推測する、長いくだりがよくあって、それには半ば閉口していたことがありましたが、
この作品を読んで、いや、それは(作品によっては)やはり必要なんだ、と考えが変わりました。
こういうことは、とても地味なことですので、さほど印象に残らず、看過されがちな部分でもあるかと思いますが、
先にも述べた通り、この作品が書かれた時点で、既に吸血鬼は扱い次第で、パロディにしかならなかったわけで、
吸血鬼の実在を保障する為に、人物たちの「そんな馬鹿な、信じられない」という、常識の大きな壁との対立は、
私は、本気で恐怖を求める作品であればあるほど、避けては通れない手続き、みたいなものだと思います。
このことは、街の被害が甚大になれば、医学的措置や、警察の介入が避けて通れないのと同様に、
作品におけるリアルを、根底で支える部分になると思います。この小説も、勿論その点は丹念に描かれています。

ただ闇雲に「吸血鬼ドラキュラ」に挑むのではなく、様々なアイデアと、キング自身の資質が噛み合ったこの作品は、
下手をしたら、「吸血鬼ドラキュラ」以上に、後進にとっての、吸血鬼小説の高い壁になったようですし、
かのクーンツも、どこかで、「呪われた街」に挑むのは、賢明ではない」と述べていたようでした。
ところが…。この小説から30年近く経って、今度はアメリカでもイギリスでもなく、何と、我が国(!)から、
更なる超弩級の吸血鬼小説が出るのですが、この本、あまりにぶ厚くて、読み直すのに時間がかかりますので、
また機会があれば、後述したいと思います。







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