A・ブラックウッド他「怪奇小説傑作集1」

20070108195529[1] 怪奇小説傑作集1 
 A・ブラックウッド他 
 創元推理文庫






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このアンソロジーは全5巻の、怪奇小説の名作集とも言うべき、国産ホラーアンソロジーのマスターピースです。
第1~3巻が英米編、第4巻が仏編、第5巻が独・露編のカップリングになっています。

この第1巻は、19世紀から20世紀初頭にかけての、英国の黄金期の怪奇小説を中心に収録した選集です。
改めて収録された作品を見ますと、正攻法の極みとも言うべき、ものすごい重量級のラインナップです。
しかも!これで終わらず、第2巻、第3巻と作品が続くところに、英米のずば抜けた層の厚さを痛感させられます。

今は21世紀のIT社会ですから、レ・ファニュの「緑茶」の合理的説明の部分や、ヘンリー・ジェイムズの心理小説の実践や、
ブルワー・リットンの「幽霊屋敷」の後半で、突如湧き起こる神秘学の問答など、今の目から見ると、
古臭い部分があることは確かに否めませんが、それが作品の面白みまで奪っているわけではないと思います。

この選集に駄作は1つもありませんが、中でもアーサー・マッケンの「パンの大神」が、私は一番好きです。
従来の幽霊譚とは大きく異なった、新たな恐怖を創造しようという、マッケンの意志が作中に漲っていますし、
マッケンの作品からは、他の作家にはない独特の、禁忌を土足で踏みにじるような、強烈な不浄の感覚を感じます。
この作品を読むと、ラブクラフトが、いかにマッケンに多くのものを負っていたかがよく分かります。
また、マッケンの物語を語る手際が非常に独特で、この作品では、それが絶妙の効果を上げていると思います。
どちらかといえば無骨な語り口の人ですが、いきなり違う人間から話が始まったり、複眼的にこの作品を捕えたことで、
関わる者全てに災いをもたらし、しかも所在の摑めない存在、という野放しの怪異の怖ろしさが、実に上手く描かれています。

全ての作品は挙げられませんが、他に気になった作品はと言いますと、
「猿の手」は、アイデア、展開、描写の三拍子が、ここまで見事に噛み合った作品は稀なほど、よくできた怪談ですし、
E・F・ベンスンの「いも虫」もまた、アイデアが非常に素晴らしい作品です。ハヤカワ文庫の「ハードシェル」に収録された、
ダン・シモンズの「転移」という作品が、私は大好きですが、それの元ネタになった作品です。
W・F・ハーヴィーの「炎天」について、解説で平井呈一が、「光り苔のようなかすかな燐光を放つその作品」と評したのは、
全く言い得て妙で、一瞬の切れ味の鋭さと、アスファルトの向こうに立ち上る陽炎みたいな、ある種の頼りなさが混じり合った、
何とも言い難い、不思議な読後感を残す作品です。

そして、忘れてはならないのは、アメリカ文学の大家ヘンリー・ジェイムズ(怪奇小説家とは言ってはいけない人)で、
この人が独自の心理文学の手法を、怪奇小説に持ち込んでくれたおかげで、
怪異を直接的に描写しないという、怪奇小説における大きな選択肢を、後進の作家たちに残してくれたのですし、
そこから、その考えを「朦朧法」として、より先鋭化させた、デ・ラ・メアみたいな人が出てきたわけですから。
彼の「エドマンド・オーム卿」は、恐怖の描写と真相解明に明け暮れる、従来型の怪奇小説とは、
大きく印象の異なるものですし、幽霊の所在から、ある娘と恋人の恋愛感情や、娘の母と恋人との共犯意識まで、
扱われている対象のレンジが広く、私には読み応えたっぷりの小説でした。

しかし、こうして見ますと、私が好きな国書刊行会の「ウィアード・テールズ」とは、あまりにレベルが違い過ぎるなあ…。

 
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