仁賀克雄編「猫に関する恐怖小説」

20070108195529[1] 猫に関する恐怖小説
 フレドリック・ブラウン他 仁賀克雄編
 徳間文庫






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 創元推理文庫刊の「怪奇小説傑作集」5部作に比肩する名アンソロジー、「幻想と怪奇」3部作(ハヤカワ文庫)の編者として有名な仁賀克雄が編纂した、猫をテーマにした恐怖小説集です。
 題材のせいか、全体的には小粒なアンソロジーに仕上がっておりますが、全てのアンソロジーが、「闇の展覧会」だの、「ナイト・フライヤー」だのみたいに、長大重厚なものばかりでは疲れますので(そもそも本を持つ手が重い)、たまにはこの本のように、いい按配に小粒なアンソロジーがあっても良いように思います。
 また、執筆陣が無闇に豪華ですので、下記に題名と著者を挙げます(これが書きたくて、この記事をアップしたようなものです)。

 トバーモリー/サキ
 猫男/バイロン・リゲット
 猫の復讐/ブラム・ストーカー
 白い猫/S・ル・ファニュ
 猫ぎらい/フレドリック・ブラウン
 僕の父は猫/ヘンリー・スレッサー
 古代の魔法/A・ブラックウッド
 箒の柄/W・デ・ラ・メア
 灰色の猫/バリー・ペイン
 ウルサルの猫/H・P・ラヴクラフト
 エジプトから来た猫/オーガスト・ダーレス
 緑の猫/クリーヴ・カートミル
 七匹の黒猫/エラリークイーン
 魔女の猫/ロバート・ブロック
 著者謹呈/ルイス・パジェット

 所謂、古典派の巨匠(腕を組んでどっかと座る首領級といった趣き)から、御大を筆頭にラヴクラフト門下生(道場荒らしめいた、やんちゃな一派)、「奇妙な味」に属する手練れ(こちらは斜に構えたクールな方たち)、マイナー小説家まで、万遍なく幅広いラインナップです。怪奇小説ファンには著名な、「あの人が、こんな作品を」という、アンソロジーならではの愉しみも味わえると思います。
 何を考えてるか分からない、執念深い、眼が光る、音もなく忍び寄る、無言で窺い見る、といった、魔性としての猫、という旧態然とした猫観に則った小説が大半ですが、猫カフェができ、SNSで連日猫の愛くるしさを強調する動画や写真がアップされる昨今となっては、個人的には一巡して新鮮味すら感じられ、ありし日の価値観を今の目で読むことは、何であれ色々と思うところがあって、面白いものだと思います。
 因みにストーカーの「猫の復讐」は、猫を愛してやまない方の中には、本気で怒り出す方もいそうな気がします。猫の扱いが本当に酷いですから。小説は因果応報の極みといった内容ですが、ここにも人間主導の、当時の漠然とした価値観が作中に横たわっているように思えます。

 作品単位でも、小粒ながら印象深い作品が幾つかあります。
 相変わらず、「朦朧」っぷりが著しく、思わせぶり過ぎて実に尾を引くデ・ラ・メアの「箒の柄」(デ・ラ・メアは「朦朧法」の大家)。作中の猫の不気味さでは一際印象に残る、クリーヴ・カートミルの「緑の猫」(この作品は、SFホラーの佳作でもあります)。パルプ誌出身らしい大雑把さが魅力の、ブロックとダーレスの諸作。殆どダジャレの域に近いブラウンの「猫ぎらい」。コントに翻案できそうなスレッサーの「僕の父は猫」(この作品はちょっと好きです)。

 中でも素晴らしいのは、個人的には下記の3作だと思います。
 バイロン・リゲットという人は、アメリカの退役軍人という以外に詳細不明の人のようですが、無人島を買い取った富豪を描いた「猫男」は、想像するだに悪夢としか言いようのない世界です。ネタがばれたら面白くないので、これ以上の紹介は控えますが、この人が書いたものが他にあれば、是非読みたいと思うところです。
 ルイス・パジェットの「著者謹呈」は、近年では文春文庫刊、「もっと厭な物語」にも再録されていましたが、確かにそれも頷ける、お話のネタ自体が非常に面白い、猫テーマの傑作の一つだと思います。復讐に燃える悪魔の使いの猫と、猫に復讐される私立探偵の攻防を描いた作品ですが、これも探偵がどう猫に対処するかを書いてはネタばれになる為、紹介は控えますが、綺麗に着地したラストまで含め、まず退屈する間もなく一気に読める、素直に面白い一編かと思います。この話を読んでいて、何とはなしに「血の本」シリーズの頃のクライヴ・バーカーの、幾分気楽な部類の短編を思い出しました。直截的には、「下級悪魔とジャック」ですが、作中の皮肉な造形とロジックが、その頃のバーカーの小説との親和性を感じさせます。

 間違いなくこの本の白眉で、最も重厚なのが、怪奇小説の巨匠ブラックウッドの、「古代の魔法」です。この作品が結局は、全てを掻っ攫っていったと個人的には思います。
 この作品は、ゴーストハントものの代表的なシリーズの一つである、ジョン・サイレンス博士ものの一編で、「いにしえの魔術」などの題名で、他の編纂集などにも度々掲載される、つまりは掛け値なしの傑作です。
 作品は、ひょんなことからフランスの田舎町に逗留する羽目になった、侘しい中年男の体験談です。時代から取り残された、閑静なこの田舎町は何かがおかしいと気付き、次第にそれが男を浸食し、徐々に抗い難く魅入られていく過程が、異様な迫真性を以て有無を言わせず読者に迫ってきます。徐々に盛り上がる怪異を、異様なまでに仔細に、かつ重厚に描く筆致は、ブラックウッドの独壇場とも言うべきで、彼の文体や世界観には、冗談が全く通じないような、教義的とも言うべき息の詰まる堅苦しさがありますが、それと題材が合致した時の突破力は、唯一無二といって良いと思います。この作品は、それが最も上手くいった作品の一つだから、時代の浸食にも抗い後世にまで残る力が、作中に漲っているのだと思います。
 そもそもブラックウッド自身が生粋の神秘主義者で、大自然や超意識といったスピリットを畏怖する、その本気ぶりが彼の作品の特質であり、反面教義的な息苦しさにも繋がっている気がします。この作品は重厚さに加えて、中年男の寄るべなき寂寥感をも切々と掬っており、久々に読み返しながら、嘆息が漏れるような気分を味わいました。ぐうの音も出ないというか、完全に出来が違います。
 因みに、ジョン・サイレンスものを通読すると分かりますが、ブラックウッドという人には、内面の激しい教義的世界観と、意気消沈した人への無類の優しさが混在しており、ジョン・サイレンスものを読んでいると、妙なところでいきなり涙腺を刺激されたりするので、どうにも困ったものです。「お疲れな人には、ジョン・サイレンスもの」なんて、世相を反映した斜めからの切り口も、マーケット的にありかも知れません(?)。
 何だか最後はブラックウッドの話ばかりになってしまいましたが、好きなもんでご容赦下さい。この作品はこの本だけでなくても読めますし、ジョン・サイレンスものは他にも傑作多数ですので、怪奇小説好きな方には、全力でお薦めしたい次第です。

 最後に余談ですが、この手のアンソロジーには珍しく採録された推理小説の大家、エラリー・クイーンの「七匹の黒猫」に登場する人物の一人の名前が、ハリー・ポッターでした。
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「あの二年前の三月」

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 Twitter300字ssとは、月に一度最終土曜日に発表されるお題で、一週間掛けて300字の小説を書き、公開して交流や宣伝に役立てようという企画です。



 第43回お題 「空」
 題名 「あの二年前の三月」

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 鳩の帰巣率が低下しているようです。愛媛では空が落ちてくると怯え、心身を病んだ人が出たそうです。晴女だの雨男だのとよく言われますが、最近では虹女というのが現れて、刃物を持って追いかけてくると聞きますから、どうかお気を付け下さい。夜明け前に、空からシジミが降ってくるのも珍しくなくなりましたね。古来から左巻きの螺旋は不吉とされてますが、最近はそのような昇り方をする魂が増えましたね。空も色んなものを吸い上げ過ぎたせいか、いつも不機嫌そうな油膜色に濁って、夜は重油みたいに真っ黒です。こういったことは確か、大容量のAIを搭載した巨大衛星が宇宙に打ち上げられた、あの二年前の三月から増加しているんでしたね。
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