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2017年の活動状況

 ブログの主旨が同人誌の活動報告なのに、あまりにも更新頻度に乏しい為、今年一年の同人活動を振り返ることにしました。
 ツイッターを始めたのはごく最近ですが、そこで他のサークルさんの活動状況や創作の裏話などを、興味深く拝読させて戴いたこともあり、次年度への反省等も含めて、活動を振り返るのも良い機会かなと思いました。

 (おことわり)
 書いた小説の裏話をつらつら書いていきます。
 ネタバレにはならないと思いますし、そもそも頒布数が少ないので問題ないかとは思いますが、少しでも情報は入れたくないという、当誌をご購入された方がおられましたら、本誌を読んだ後に読むことをお薦め致します。



 そもそも、同人イベントに行ったこともなければ、同人誌自体を読んだこと自体が殆どなかったので、下見のつもりで、昨年11月の第23回文学フリマに一般客として行き、ホラー系の何冊かの同人誌を読み、既に同人誌の創刊経験のある方に色々と教えを乞い、周知活動の一環としてブログを開設し…といった具合で、昨年は細々と下準備を進めておりました。
 当誌に2回続けてご寄稿戴いた友人(今、ペンネームを考えているそうですので、あえて名は伏せます)に、寄稿のお願いをしたのも、この時期だった気がします。表紙のイラストなども担当して戴き、大変感謝しております。

 同人誌の青写真としてあったのが、以前も述べましたが、アメリカの怪奇幻想専門パルプ誌、「ウィアード・テイルズ」でした。創刊号のテーマを怪物としたのは、「ウィアード・テイルズ」へのオマージュからです。
 今後、同人誌にテーマを設けるか否かについてですが、基本的にはノーテーマの方針で行きたいと思います。
 そもそも、「ウィアード・テイルズ」自体が、SFあり、ファンタジーあり、犯罪小説の流れからのものもあり…といった具合に、ジャンルのごった煮でしたし、個人的にも書く際は、なるべく自由に伸び伸びと書きたいので、仮に特集があっても稀になると思います。
 来年はできれば、他のサークルさんのアンソロジーに参加できればと思っておりますが、これについては、テーマの拘束下で書くことを課すといった感じで、個人的には修行と位置付けております。
 そういった経緯から、ドタバタとどうにか創刊に漕ぎ着けたのが、下記の同人誌です。
 今年5月の、第24回文学フリマ東京に出展したのが、下記の2冊になります。


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2016 11 23 4 DAMMED TIHNG VOL.1
 河野真也「やまびこ」
 江川太洋「犬と老人」







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 ここでは自分の作品のみ触れます。
 因みに「やまびこ」ですが、正調の心霊実話作法に則った、じわじわと怖い(面白い)小説ですので、是非読んで戴ければと思います。

「犬と老人」ですが、元々は後述する「FREE PAPER VOL.1」に発表した、「影が呼ぶ」という短編を本誌に掲載するはずでした。
 昨年の文学フリマに行った時に、製本されたフリーペーパーがあることに感銘を受けて、自分も創刊の折には、製本されたフリーペーパーを発行したいと思いました。フリーペーパー用の原稿を間に合わせる為に、短くて済むお話をと、半ばデッチ上げのように考えたのが、「犬と老人」でした。

 後述する「影が呼ぶ」に非常に時間を取られ、猶予が殆どなかった為、「犬と老人」は、ほぼ二徹で訳も分からずに書いた短編です。そもそも「影が呼ぶ」自体が、主な登場人物がたった二人しか出ないのに、想定以上に長い話になった反省から、人が一人と犬なら、もっと短くなるだろうと書いたら、もっと長くなってしまったというのが実情です。結果的には、掲載する作品を入れ替えて正解だったかなと、自分では思っております。

 他ですが、
 テーマが怪物ですので、「わんさか怪物が出る小説」
 「誰も知らない、孤独な闘いを描く」
 こういうことがやりたくて書いた小説です。

 私は原則的には、プロットは立てません。たいていいきなり書き始めます。何故プロットを立てないかといいますと、作るのが苦手というのもありますが、それ以上にプロットに縛られずに、自由に書きたい気持ちが強いからです。
 予め筋の流れが見えるということは、著者にとっては作中の未来が見えるということで、それがとても嫌です。自分の時間感覚と合致しません。書いていて、自分でも何が起きるか分からない方が好きですし、そういう狭い視野を手探りで歩むことでしか見えない、「何か」が描ければ、という気持ちがいつも念頭にあります。
 即興で書いて行き詰まった場合は、行き詰まった起点まで遡って、もう一度そこから書き直します。最初から書き直すこともよくあります。
「犬と老人」はとにかく勢いだけで書きましたので、「あ、こういう話なのね」と自分で思えたのは、作中の後半で、犬が怪物に捕まる場面を書いている時でした。

 余談ですが「DAMMED THING VOL.1」で大変だったのは、執筆よりも入稿用データの作成の方でした。誤字脱字多数、印字の濃さの違いなど、酷い仕上がりの癖に何言ってんだ…と思われるでしょうが、最後まで印刷屋さんから確認連絡が来るなど、GW期間は気が気ではなかったのを覚えてます。

 本誌の宣伝用に配布しましたのが、下記のフリーペーパーです。
 


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2016 11 19 FREE PAPER VOL.1
 江川太洋「影が呼ぶ」







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 先に述べた通りで、元はこちらを本誌用に書いてましたので、この短編も怪物テーマの小説になります。
 この時は、本当にネタが浮かばず四苦八苦しました。
 例えば「怪物」など、テーマから発想をすると、私の場合、たいていドツボに嵌まるようです。実は実現しなかった、書きたい怪物テーマの小説があったのですが、これは取材が必要だと思い、取材のノウハウも皆無だった為、取材なしで書ける小説を…ということで、つらつらと考えていた記憶があります。

 怪物といえば、怪物がバリバリ暴れ回るパワフルなお話だろ、という思い込みがあり、そういうお話を書きたかったのですが、結果は読んでの通りで、そういうのとはちょっと違うお話になっています。プロットを立てずに書くと、よくこういう結果になりますが、自分では素直に流れに従った結果と受け止めています。

 この時、ネタ出しの為に考えていたことが、怪物は一体何処から来るのだろう、という疑問でした。それは異次元からに違いないというのが、私の出した安直な答えですが、その異次元を繋ぐ回路が、人間の記憶の中にあったとしたら…そういう発想で書いた小説です。
 また、たまに通うバーの店長さんから聞いた実話――中学の時、何かの壁を見たら、壁一面に顔が浮かび上がっていた、という逸話が念頭にありました。家の中に顔を見て、それが壁伝いにいつまでも続いている、それを辿っていくと、次第にもう取り壊された、過去にしか「ない」部屋に辿り着く、そこは事件の起きた場所だった…こういう展開を考えておりました。

 書くのにかなり難儀して、一月くらい何度か書き直したのを覚えています。最初は妻の視点から描いていましたが、どちら側から描いた方が怖いのかを考え直して、夫の視点に替えてもう一度最初から書き直しました。

 約半年後の今年の11月、第25回文学フリマ東京に出展したのが、下記の2冊になります。


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2016 11 23 4 DAMMED THING VOL.2
 はもへじ「コンビニ夜話」
 河野真也「カスタム」
 江川太洋(原作:河野真也)「鳩」







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 今回も友人が、小説の寄稿、表紙デザインなど、八面六臂の大活躍を見せてくれました。
 はもへじさんですが、当ブログ経由で面識を得て、面談の上、小説を寄稿戴ける運びになりました。「コンビニ夜話」は、当人が言っておりました、「エロいホラーが書きたい」という狙い通りの一編です。
 前回に引き続き、寄稿を戴いた友人の「カスタム」ですが、作品自体に恨みの念がたっぷりと込められた、なかなか壮絶な一編です。

 「鳩」につきましては、巻末のコメントにもありますが、実は友人が二十年前に撮影までしながら、諸事情で頓挫した、映画の脚本が原作です。私は原作を読んだ時から、これは面白いなと思ってまして、撮影が頓挫したのもあり、この作品を世に送り出す機会を作れればと思い、友人の承諾を得て小説化しました。所謂ノベライズに非常に近い執筆体勢でした。
 後に原作者の友人に読んで貰いましたが、「原作とは全く違う話」になっているそうです。
 かなり意図的に改竄を加えましたが、原作でやっていることが面白いので、設定をそのまま残してある箇所もあります。

 この小説は本当に難儀しました。何度書き直したか分からないくらい、とにかく書き直してました。執筆には二ヶ月くらいかかったと思います。全く筆が動かなくなった時は、また主役の性別を替えるという方法で、どうにか乗り切りました。
 難儀した理由は様々ですが、一番の理由は、この原作(または自分が書いている小説)自体が何なのか、私には全く分かっていなかったからです。正直に言いまして、書き終わった今もよく分かっていないのですが、分からないけど面白いと感じたことを、そのまま書いて良いのか、といった部分で相当逡巡したのを覚えています。分からなくても大丈夫という結論を得るのに、何度も書き直す必要がありました。
 プロットもいらなければ、テーマもいらないと、自分の中では大きな気付きを得た作品でもあります。

 題名にもある、「鳩」の扱いにも、頭を悩ませました。これは何を意味しているのか…などと一端考え出すともう駄目で、この思考ループから脱却するのに、けっこうな時間を要しました。結果、得た答えは実に単純なもので、「鳩は鳩だろ、意味なんてねえよ」というものでした。要所で鳩を描写すれば成立すると確信を得るまでに、数回書き直しております。

 この小説では、怪異の原因などについては一切触れられておりませんが、それは意図的にそうしました。私は、怪異は融通無碍なものだと思っていますので、作中で因果が明らかになる必要は全くないと思っております。そういう姿勢が露骨に出た小説だと思います。
 作中の怪異を体現する、ある人物が、一体何者なのかということについては、実は私の中ではある程度答えがあるのですが、分かったところで特に大事とも思えませんので、ここで触れるのは控えます。

 この小説を書く中で、「力を振り絞って書く」ということを経験できたのは、私にとっては実に得難い経験でした。この体感が身体の一部にまだ残っていれば、いつか、またそこまで辿り着けるのでは、と思っております。今もそれを目指して、別の小説を書いているところです。
 仕上がりの巧拙については色々あると思いますが、これが現時点でのベストと、自分では思っております。


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2016 11 19 FREE PAPER VOL.2
 江川太洋「スマホロイド」








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 この小説は、前述の「鳩」に時間がかかり過ぎて、新作を執筆できなかったので、ピックアップした過去作になります。新作を書けなかったのには、今でも悔いが残っております。
 満員電車の狭い空間内で、無理にスマホを見る人に本当に苛々していて、スマホの角が背中に当たって痛かったりするのです。あれは本当にご勘弁下さい。
 作中で、そういう人間をけちょんけちょんにしてやる、という子供じみた動機だけで書いた小説です。
 書いている間は、無闇に面白かったのを覚えております。
 あと、最近何かと世相が息苦しいという漠然とした思いがあって、それは多少作中に反映させたいとも思っておりました。
 それ以上、この小説について述べることはありません。

 

 今年一年はこのような感じでした。
 頒布数は恥ずかしいので控えますが…とにかく本が売れませんでした(涙)
 事前の周知活動も必要なのではと思い、ツイッターを始めたのがつい先日でした。これは執筆と同じくらい、私の中では大きな体験でした。私はこういうイベントは文学フリマしか知りませんでしたが、まだまだ同様のイベントがあることや、他のサークルさんの取り組みなども、非常に参考になりました。
 ツイッター上では、アンソロジーの参加告知も活発に行われておりますので、来年は我々の冊子だけではなく、武者修行のつもりで、アンソロジーにも参加できればと思っております。書く量を増やせれば、書きたいお話は幾らでもあるのです。
 

 同人誌を出して人目に触れることで得た幾つかのご感想は、自分にとっては大きな励みですが、私の場合、それよりも大きかったのは、とにかく外部的に締め切りを設けて、書く環境を強引に作ったことで、自発的に書くようになったことに尽きます。
 一つ告白しますが、今は執筆に使っているPCのすぐ上の壁に、受験生みたいに貼り紙をしています。それを見ますと、仕事疲れで消耗した夜も、少しは書こうかなという机に向かう気になります。
 私には実に効果的でしたので、腰が重いとお悩みの方がいましたら、お薦めしたい次第です。

 他、5月から11月の半年の猶予期間中に、発表する見込みのない中編を一つ、短めの長編を一つ書いております。
 発表に値しないとの判断から、それらの作品は手を加えない限り、何処かに発表する機会はないと思います。
 自分には、長編執筆は万里の長城並みに遠いと思っておりましたが、書くと意外とそうでもないなあと思えたのは、大きな経験でした。執筆には、「鳩」の方が、よっぽど時間がかかっております。
 来年は、ちゃんと発表できると思える長編を書くというのが、私の密かな想いです。
 


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三津田信三「怪談のテープ起こし」

20070108195529[1] 怪談のテープ起こし
 三津田信三
 集英社






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 今回ご紹介しますのは、以前「赫眼」をアップしました、推理小説とホラー小説の双方に跨って、旺盛な執筆活動を続ける三津田信三のホラー短編集、「怪談のテープ起こし」になります。
 今回も「安心と信頼の三津田信三」ブランドは健在です。矛盾するような言説になりますが、とにかく安定して怖く、個々の作品のバラつきが極端に少ないのは、本当に驚異的です。最近も、「わざと忌み家を建てて棲む」という、厭な題名の小説も上梓されたようです。これは早く読みたいところです。

 三津田信三のホラー小説の主な特徴につきましては、前回の「赫眼」の記事でも私見を書かせて戴きましたが、その大きな特徴の一つに、著者の身辺雑記的な描写から始まるという、メタフィクションの手法がどの作品でも取り入れられている、ということがあります。このメタフィクションの援用には、主に以下の二点の狙いがあると思われます。
 ①心霊怪談テイストの小説の、現実感を補強する為
 ②その小説の話者を明確にする為
 ①と②は小説の中で分かち難く結び付いているものですが、②につきましては小説によって、ほぼ聴き起こしのような一人語りの体裁もあれば、体験談を著者が小説として再構成したという体裁の三人称叙述の小説もあります。
 そもそも②を小説毎に律義に規定すること自体が、他の小説家には殆ど見られない姿勢だと思いますが、これはどの視点から小説を語るかを、創作上の姿勢として、著者が非常に重視しているからだと私には思えます。②をきっちりと規定していくということは、一体誰の視点で語れば、この小説は最大限に怖くなるか、ということを著者が常に考えているからだと思います。小説における視点の選定には、まず一人称か三人称か(二人称もありますが、ここでは割愛します)という選択がありますが、三津田信三の場合、その選択の先に、これは体験者の自語りが良いか、著者が三人称(あるいは一人称)に再構成した方が良いかという、より当事者性を強調する選択が続く、といった按配です。この選択が見事に効果を発揮した成果が、三津田信三のホラー小説の大きな特性の一つであると、私は考えます。

 
 上記の特性を踏まえ、今作で著者は、さらに現実感を補強する為の仕掛けを講じてきます。
 今までの著者の短編集は、独立した短編が並ぶ、通常の短編集の構成でしたが、今作では小説と小説の間に、序章、終章、幕間を設けて枠物語の体裁を取ることで、短編全体を接ぎ木して一貫性を持たせ、より現実感を補強する試みを行っております。枠物語自体が、この著書を上梓するにあたっての、著者と編集者のやり取りという、まさにメタフィクション的な構成になっております。今作は、枠物語の中にも各短編にも、現実とのリンクが補強された、二重のメタフィクションという構成になっております。
 また、その枠物語によりますと、今作の大半が怪談のテープ起こしを再録、再構成したという設定になっており、ついに記憶にある逸話ではなく、テープという記録媒体からの聴き起こしという、実に物々しい領域に今作は達しました。
 初のホラー短編集の「赫眼」の時点で、方法論的には既に高いレベルで完成されており、しばらくはその方法論に従って執筆を進めてきた著者が、ここに来てさらに方法論を深化させようとする、創作上の向上心が窺えた気がして、その姿勢に私は感銘を受けました。

 このような構成で書かれた作品ですが、基本的に完全に外した作品は、一作もないと思います。
 小説の中でも著者自身が述懐しておりますが、「黄雨女」と「すれちがうもの」が同工異曲のような小説になっております。どの短編も「徐々に接近してくる怪異」を扱った短編ですが、設定も展開も異なりますので、私はむしろ、同工異曲の作品を仕上げるパターン差を読めた気がして、却って非常に勉強になりました。
 この短編集の白眉は、「留守番の夜」、「集まった四人」、「屍と寝るな」の三作だと私は思います。
 どの作品が好みかは、それこそ個人主観によりますが、私は「集まった四人」が一番怖いと感じました。音ヶ碑山という山に登山することになった四人の話ですが、まず四人共通の招待者(四人は招待者とはバラバラに接点があって、全員初対面です)が、用事で来れなくなったと急に連絡が入る時点で、もう既に物語から不穏な気配が漂います。音ヶ碑山にまつわる不吉な伝承、それを示すような痕跡、場所自体の忌わしさ、魔に魅入られて人格が変わってしまう人物たち、何もかもが怖いです。何より厭なのは、人格が変わって完全に魔に取り込まれてしまった人間たちを、「傍から見る」という状態です。当人が直截的に怪異に遭遇するのとはまた違った、嫌な怖さがあります。
 話自体にどうも事態のはっきりしない厭な感じがあって、最後である解釈が示されたことで却って混迷を増す、奇妙で不可解な「屍と寝るな」、一晩だけある豪邸の留守番を頼まれる羽目になった人の怪談、「留守番の夜」、いずれも出色の出来だと思います。
「留守番の夜」では、「ずっと部屋にいるから、全く相手にしなくていい」という住人の存在が示されますが、同じ家に居ながら全く存在感のない同居人は、完全に恐怖の対象でしかありません。私はこの小説を読みながら、こちらも非常に不穏な、ダン・カーティス監督の「家」という映画を思い出しました。原作はハヤカワ文庫のモダンホラーセレクションで出版された、ロバート・マラスコの「家」です。私は原作は未読ですので、いつか是非読んでみたいです。
 
 

中村融編「千の脚を持つ男」

20070108195529[1] 千の脚を持つ男
 シオドア・スタージョン他 中村融編
 創元推理文庫






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 さて、今回ご紹介させて戴きますのは、近年、創元推理文庫を中心に、「街角の書店」、「夜の夢見の川」など、SF・ホラーなどのジャンルで次々と名アンソロジーを編纂されている翻訳者、中村融編の怪物ホラー傑作選、「千の脚を持つ男」になります。

 怪物といえば、私も「ウィアード・テイルズ」に倣って創刊しました同人誌、「DAMMED THING Vol.1」で、テーマを怪物にしましたが(一つ妖怪ネタも混じっていたような…)、怪物ネタの場合、お話自体のアイデアを考えると同時に、どんな怪物を創造するかという怪物のアイデアも同時に問われるのだなあ…という印象を持ちました。私の場合は、何とも苦し紛れだった、甘い記憶があります。という訳で今作なのですが、お話良し!怪物良し!と、バラエティに富んだ怪物テーマの短編が10編揃っております。おそらくこの一冊で、怪物のカテゴリが一通り敷衍できるのではないかと思うような、素敵なアンソロジーです。
 編者が巻末に解説を記しておりますが、それによりますと、本作は編者が幼少期の頃に多大な影響を受けた、「ウルトラQ」を、紙面で再現したかったのだそうです。

 
 巻頭ですが、実にオーセンティックな怪物である、不定形の怪物(スライム、ブロブと呼ばれているあれですね)を扱った、ジョゼフ・ペイン・ブレナンの「沼の怪」から幕開けです。深海で悠久の昔から存在する不定形のそれの生態を克明に記した、非常に長い時間軸の描写から始まった冒頭から、アメリカ西南部(?)の沼の近くの近隣住人の逸話へ移る間の、急に身近な展開になったな、という強引な接ぎ木感が、妙に愉しい一編です。沼に潜む怪物が次々と人間を喰らい、警察が出動し…と、展開自体も極めてオーセンティックで、冒頭に打って付けの作品だと思います。

 個人的印象ですが、作中一番面白かったのが、SF界の大御所シオドア・スタージョンの「それ」です。ある森の腐葉土から発生した怪物を扱ったこの作品ですが、森に住む一人娘のいる夫婦と、夫婦の営む牧場を手伝う夫の弟の四人がそれぞれバラバラに行動して、怪物に遭遇する過程が、三人称多視点の描写の中で、実にスリリングに展開する、没入度では群を抜いて際立った一編になっております。
 また、秀逸なのが、おそらく他ではあまり見ないような怪物の概念で、やはり怪物自体のアイデアということになりますと、SF小説家のそれは非常に秀逸であり、なかなかホラープロパーな小説家にはない発想の仕方をするものだと、改めて思わされました。怪物は民俗学的アプローチにも、科学的アプローチにも、両方良く映える存在です。一時期隆盛を誇ったディーン・R・クーンツにしましても、元々はSF小説家だったのですし、この分野に多くのSF小説家が参入して欲しいと、切に願うばかりであります。

 怪物の気持ち悪さという点では、R・チェットウィンド=ヘイズの「獲物を求めて」が一歩抜きん出ております。怪物を描く上で一つの大きなポイントが、どれほど生理的嫌悪感を際立たせられるかかと私は思いますが、この小説の怪物は、個人的印象ですが、実に厭なフォルムをしております。少し人のよすがが残っているというのが、本当に厭です。お話自体もある有名なモンスターを扱った変種の小説で、捻った設定も作品に一役買っていると思われます。

 標題にも使われました、「千の脚を持つ男」の著者、フランク・ベルナップ・ロングですが、この人は筋金入りの米国パルプ誌作家で、「ウィアード・テイルズ」の代表的な寄稿家の一人でもあります。編者によりますと、ロングは「怪作王」の称号を謹呈したい小説家だそうでして…まあ、全く仰る通りで、二言もございません…。
 そのせいか、編書中でこの人の小説だけが、明らかに他の小説からは浮いた妙なちぐはぐ感と、独特の熱量と強引さを感じさせ、そういう意味では一際目を引く、めくらましのような一作になっていると思います。この小説が執筆された1920年代後期は、既に米国パルプ誌は百花繚乱を迎えており、特にSF・ホラー系では、マッドサイエンティストの身勝手な探究心が、とんでもない悲劇を生むという小説が、それこそ雲霞のごとく発生したのですが、たいていそこで描かれるマッドサイエンティストは、根本的に思慮が浅く、とても頭の良い人に見えないのが、何とも面白いと思うところです。
 勿論、「怪作王」(笑)が満を持して放った、作中の科学者の頭が良いはずもなく、この人が奮闘すればするほど、事態は雪ダルマ式にとんでもない状況を迎え、ひょっとして、これは新手のギャグなのかなと思うほど、痛快で面白い一作になっております。この小説は、まだ未読の方がおりましたら、是非ご一読願えればと、心から祈念するところであります。

 そして、巻末で編書をきっちり締め括ってくれるのが、こちらも英国SF小説の大家、キース・ロバーツの力作自動車ホラー、「スカーレット・レイディ」です。意志を持つ機械というのは、立派な怪物の一種であると、この編書では位置付けられておりますが、この小説の自動車の忌わしさは相当なものです。私はこんな車には、絶対に乗りたくありません。あまり書きますとネタバレになるのであれですが、自動車全体どころか、部品の一つ一つまでが周囲に災厄をもたらす辺り、相当強烈な“意志”を持った自動車です。また、主人公の職業が自動車修理工というのが実に秀逸な人物配置で、私は疎いのですが、作中の大半を占めるメカニック描写を交えながら、修理工の観点から見ますと、この異形の自動車の異形ぶりが、より一層際立ってくるという、読み応えたっぷりの力作に仕上がっております。

 怪物はパターンをカテゴリ化してしまいますと、おそらく究極的には十指に満たないと思いますが、大事なのはあくまで描き方とツイストであると、読みながら再確認させて戴きました。そういう意味では、カテゴリの少なさとは無縁に、今後も素晴らしい怪物ホラーを生む余地はまだまだあると思われますし、私も「犬と老人」という短編でけっこうしつこく怪物を描いたつもりですが、まだまだ全然足りていないと思うのが本音です。
 実は「犬と老人」は、「怪物がバリバリ人を喰いまくる」お話にしたかったのです。結果はそうはなりませんでしたが、今度こそそういうお話を思い付きましたので、しっかり下準備をして、いつか書いてみたいなという意欲を触発された読書体験でもありました。私にはSFマインドは皆無ですが、手持ちのホラーマインドで、何とかこの怪物をものにしたいと思っております。
プロフィール

WORLD BEANS

Author:WORLD BEANS
ホラー小説専門同人誌、
「DAMMED THING」告知用ブログです。
活動状況はほぼ更新せず、大半は読んだホラー小説のことを、ぶつくさ書いてます。
ツイッター
@WorrdBeans

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