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メラニー・テム&ナンシー・ホールダー「メイキング・ラブ」 

20070108195529[1] メイキング・ラブ 
 メラニー・テム&ナンシー・ホールダー 
 創元推理文庫






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アメリカの閨秀作家2人組のユニットによる、女性の描いたエロいホラー小説です。

つい先日ネットで知って驚いたのですが、片割れのメラニー・テムは、2015年に亡くなっていたようです。
謹んでご冥福をお祈り致します。
彼女は、かつて長編「深き霧の底より」が刊行された、短編の名手、スティーヴ・ラズニック・テムの妻で、
夫妻による共作短編も何作か翻訳されています。

前回紹介した、いかにも男性らしくフィジカルで、即物的なホラー小説の「インキュバス」と比べると、
こちらはいかにも女性らしい、ハーレクインがかった、情感に重きを置いたエロいホラー小説に仕上がっています。
お話ですが、孤独な女教師シャーロットに、頭のおかしな弟カメロンが、「完璧な恋人を創れる」と、
完璧な恋人を創造し…という、フランケンシュタインにも通じる、人造の生命もの(?)を踏襲した内容です。

概要だけかい摘むと、さして触手が伸びなさそうなところが、この小説を紹介する上での難点ですが、
ところがこの小説、非常に読み応えがありまして、実は半ば期待していなかっただけに、嬉しい誤算でした。
全編を通じて、派手な展開はほぼ皆無ですが、人間の内面の機微を、丹念に追っている為に、
実は派手な行為がないだけで、小説自体は起伏に富んでいて、常に揺れ動いている印象を受けます。

こう書くと当たり前で恐縮なのですが、まず登場人物の描き方が上手く、読みながら「あ、確かにこんな人いるわ」と、
読者が(共感ではなく)実感できるように描かれてあるのは、それだけで大したものだと思います。
抑圧的な母のせいで、同じ性格になり、変化を望みながら、同じくらい変化を畏れる主人公、
典型的な芸術家肌で、感情の起伏が激しく、奇行を繰り返し、後先を顧みない弟、
その弟に盲目的に惚れてしまい、警戒心がほぼ皆無でグルーピー的な、主人公の同僚など、
彼らの内面や振る舞いが、見事に描かれてある為に、後々「完璧な恋人」の異質な存在が、大きく生きてきます。

そして、その生命に創造に、何のロジックもない点が、いっそ清々しいくらいでした。
言わば、精神力で人間を創造するのですが、その掘っ立て小屋みたいなところに、花弁が舞い、音楽、匂い、光が満ち、
譫妄状態のような磁場の中で、それは形作られ、この小説は、このような場を描く力に、実に長けています。
理屈なんかなくても、描写で十分に伝わりますし、抑圧された夢が現実を浸食するような、危うい世界観が、
見事に描かれてあると思います。
その中で、ふいに湧き起こる官能があっても、何ら不思議ではないと思います。

あまり「完璧な恋人」のことに触れると、ネタバレになりますので、控えめに書きますが、
勿論、お話を抜き差しならない方向に導いていくのは、この存在の抱える謎です。
自然や生命の摂理に反した、この不自然の極みみたいな、理解し難い存在にすら、著者の筆は光を与え、
一切の内面描写がないにも関わらず、この存在の抱えるものが、想像できるように描かれてあります。
この創られた生命の抱えるものは、多くのSFでもそうでしたが、いつだって哀しみが付き纏いますね…。

また、全体的に抑制が効いた分、クライマックスの情景はかなり壮観です。見事な緩急だと思います。

というわけで、読み応えたっぷりのホラー小説で、このユニットの第2弾、「ウィッチライト」は、いつか是非読みたいです。
それにしても、惜しい人を亡くしました。このユニットでは、もう作品は読めないのですね…。
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文学フリマ申し込みました

今年の5月7日(日)、東京流通センターの第二展示場で開催される、
第二十四回文学フリマ東京に、出店の申請をして、ブースを1つ確保しました。

実はまだ、同人誌は影も形もできていないのですが、
とりあえずやるんだ!ということで、先に押さえてしまいました。
カテゴリの「はじめまして」の欄でも記しましたが、「ウィアード・テイルズ」もどきの、短編中心の、
ホラー小説専門誌を創刊したいと考えています。

体裁等はまだ未定ですが、今は同人誌に参加してくれる方と、少しずつ詰めている段階です。
このブログを、どれだけの方が、読んで戴けているのかは分かりませんが、
主旨が同人誌の活動状況の告知ですので、晴れて発表できる段階になりましたら、また告知したいと思います。

勿論自分でも、何らかの作品を発表するつもりですが、そちらはまだ何も考えておらず…。
ほんとに、何とかなるのでしょうか…?
私は一体、誰に訊いているのでしょうか…?
いや、やるしかないので、何とかします!いつも試験は一夜漬けでしたから。
きっと今回も、何とかなる(はず)。

レイ・ラッセル「インキュバス」

20070108195529[1] インキュバス 
 レイ・ラッセル 
 ハヤカワ文庫NV






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この小説ですが、一言で言いますと、エロいホラー小説です(という割りには、さしてエロくもないのですが…)。
題名になっていますインキュバスとは、キリスト教圏の経典で記された、女性を誘惑する男の色魔のことで、
男性を誘惑する女の色魔をサキュバスと言います。
お話ですが、さるアメリカの田舎町で、次々と暴行された女性の遺体が発見され…というものです。

当然、題名にもあるインキュバスの存在が、作中で大きく浮上してくるのですが、
長編モダンホラーのセオリー通り、インキュバスの存在究明に、多くの筆が費やされることになります。
通常の、怪異の存在究明の方法としましては、おおよそ以下の感じだと思われます。
①科学的見地での状況検分。②古文書などを参照に、古来の伝説や風聞と事象の照合。
実際にこの小説でも、先の①②の双方で究明が行われます。

ネタバレになるので、詳しく書けませんが、①での法医学者の検死結果は、一読の価値ありと思います。
ものすごい状況ですから…。私は喫茶店で読んで爆笑しました。男性読者なら分かると思います。

話を戻しますと、究明の過程で、医者、警官、人類学者などが、喧々諤々と意見を戦わせるのですが、
この小説の特徴的な点は、怪異の存在を疑うあまり、それが背理法のドツボに落ち込んでいく点にあります。
「インキュバスがいるとすると、これこれの矛盾が生じる。故にインキュバスはいない」
「インキュバスがいないとすると、これこれの状況が説明できない。故にインキュバスはいる」
そんな難しい話でもないのに、何故にそんなややこしいことを…?

私は、解明の過程において、従来型の、「ただ単に信じ難い」という頑迷な否定から、
存在を何重にも否定して、存在の仮定自体疑わしくなる、という、新たな常識の壁の築き方が、
従来型の存在否定から、一歩前進した感があって、そこが面白いと感じました。
ここがより先鋭的になれば、それはまるで、ディックの悪夢のSF世界のようではないですか。
惜しむらくは、その背理法の応酬と、作中で起こる出来事が、あまり上手くリンクしていると思えなかったことです。
確かにそれもそうで、この小説は別に、現実認識の揺らぎが主題ではありませんから。

(以下、ネタバレ含みます。ご注意を!)




読むうちに、どうやらインキュバスは、普段は町で普通に暮らす人間なのですが、
興奮状態になると変身するらしい、ということが判明してきまして、
一体誰が…という、フーダニット的な展開になるのですが、その方向性が間違っている、と感じられました。

何故、こんな展開になったのかと考えますと、それはインキュバスの設定に失敗したからだ、と思います。
この小説でのインキュバスは、夜な夜な女性を襲う犯罪者となんら変わらず、
行動原理がまるで、男性優位主義を誇示するだけの、男の人間の如しです。
せっかくの色魔なのですから、内面的に(夢魔的に?)、町の女性たちを籠絡させる存在であった方が、
ホラーとしても面白い展開が望めたと思いますし、エロかったのではないか、とも思います。

作風は王道的な展開で、それなりに読ませるのですが、
伸びしろのある部分と、伸びしろを摘む部分の混在した、全体的には、ごつごつした印象の小説だと感じました。
最初に町の情景描写があって、そこには美女が多い、とつらつら紹介されていた時には、
何だか、設定が随分露骨だなあ…と、面白く感じましたが。
こういう設定一つを取っても、マチズモの思想が濃厚な、極めて男性的なホラー小説だと思います。

続けて次回、サキュバスではありませんが、女性の書いたエロいホラー小説を取り上げたいと思います。
プロフィール

WORLD BEANS

Author:WORLD BEANS
ホラー小説専門同人誌、
「DAMMED THING」告知用ブログです。
活動状況はほぼ更新せず、大半は読んだホラー小説のことを、ぶつくさ書いてます。
ツイッター
@WorrdBeans

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