2018年の活動状況
今年の夏に参加した某同人誌イベントを最後に、同人誌からは完全に身を引くつもりでしたが、これまで小説、表紙イラストの寄稿をしてくれた友人が一冊限定で同人誌の主宰を引き継いでくれることになったのを機に、今年は一冊しか刊行できなかったのでさして書くこともありませんが、同題の振り返りをしたいと思います。
今後も同人誌を刊行したとしたら、実生活上の都合により年に一冊程度しか刊行できなくなると思いますが、折角始めたので活動は細々と続けようかなと、現時点では考えております。
(おことわり)
書いた小説の裏話をつらつら書いていきます。
ネタバレにはならないと思いますし、そもそも頒布数が少ないので問題ないかとは思いますが、少しでも情報は入れたくないという、当誌をご購入された方がおられましたら、本誌を読んだ後に読むことをお薦め致します。
昨年は見よう見真似で同人誌を二冊頒布し、途中までは今年も年二冊の刊行を想定していました。
昨年末にTwitterを始め、同人誌界隈での様々な催しの存在を知ったのを機に宣伝の一環として、「Twitter300字ss公募用掌編」というものを幾つか、当ブログにアップしていました。当ブログの「創作」カテゴリに掲載されています。お暇な方がいましたらどうぞ。
当誌がアメリカの怪奇幻想専門パルプ誌、「ウィアード・テイルズ」をモチーフにしていることは以前から述べている通りで、刊行すればするほど当然同じものに仕上がる訳もなく、むしろ「ウィアード・テイルズ」色は巻を追う毎に希薄になっていきましたが、あの雑誌には当時の社会情勢、文化圏、執筆者など、様々なものが不可避的に複雑に絡まった結果、あのテイストが産まれてきたのであり、幾ら表層だけを真似てもあの核心に近付くことは実質不可能ということを、通算三冊の刊行で身を以て知りました。
今は以前ほど「ウィアード・テイルズ」への拘りもなく、この時代の日本に生きる私たちが書いたものが、必然的にそれとは異なる別の何かになる事実を自然に受け止めています。このことは執筆にも共通すると思っていて、例えば十九世紀辺りの古色蒼然とした(それ故に魅力的な)、怪奇小説のテイストを今の時代に再現するのは実質不可能に近い、といった事情と全く同一のことと考えています。
先に述べたことの影響か否かはさておき、今回も原稿を依頼した際に一切の制限を設けなかった為、総体的にはむしろ日本固有の死生観や宗教観といったものを基調にした小説が集まり、私自身に至ってはもはやホラーかどうかも怪しい小説を書いていましたが、手前味噌ながら面白い小説が集まってくれたと思っています。
今年五月に開催された「第二十六回文学フリマ東京」、七月に開催された「第7回 Text-Revolutions」に出展したのが、以下の本になります。
-------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
DAMMED TIHNG VOL.3
江川太洋「祈り」
はもへじ「柔術怪談」
河野真也「呪いの照明」
-------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
人の小説をとやかく言う資格はないので、ここでは主に自分の作品のみ触れますが、簡単な他の方の作品紹介を。
二度目の寄稿となる、はもへじさんの「柔術怪談」は題名通りの、ある柔術道場に纏わる心霊譚で、当誌あとがきにもあるように、柔術ネタでホラーを書くようそそのかしたのは私です(すみませんでした…)。柔術の稽古の描写が頻出する割には、予想外(?)にも正調の心霊譚として手堅く読める一作になったかと思います。
当誌の巻末を飾るのは、毎回八面六臂の活躍を見せてくれる友人(ペンネームを構想中だそうです)が、最後はほぼ三轍で書き上げた渾身の一作、「呪いの照明」です。九州の山村を舞台に、駐在所勤務の警官が当地に纏わる呪いに巻き込まれる、土着ホラーの傑作です。当誌のクライマックスに相応しく読み応え十分ですので、ご興味のある方は来年のイベントで是非当誌をお買い求め下さい。友人が冗談で、作中に登場する神主のシリーズでも書くかなと言っておりましたが、是非ゴーストハントものとして書いて戴きたく思っております。
私が書いたのは、「祈り」という小説です。
書いた時期はうろ覚えですが、三月から四月にかけての約一ヶ月間ほどだった気がします。相変わらず度々書き直し、「時間がない、時間がない」と焦っていたのを覚えています。
この当時の専らの関心は短編を短い枚数できっちりと書くことで、これは昨年も挑んで上手くいかなかったので、今年こそはと意気込んだ結果、これまでで最長の長さになり、途中から短く書くこと自体を放棄してしまいました。登場人物の少なさに短い枚数の所産を求めたのが昨年の実作の失敗で、「DAMMED TIHNG VOL.2」所収の、はもへじさん「コンビニ夜話」を読んだ時に、時間軸自体の短さに所産を求めれば短い枚数で物語れることを知りました。自分では勝手にワンシチュエーションホラーと命名している、この形式に則ればそれが果たせることは理解しましたが、毎回続けても飽きられると頭を悩ませた結果、長い時間軸の話の中で短く語ることは可能かという問いを自らに課して書いたのが、「祈り」でした。
結果は先に述べた通りですが、例えば津原泰水の「土の枕」は、若き主人公の従軍体験から、土(土地、農作業)と共に生きることを選び老いた主人公の死までの長い生涯を、僅かな枚数であるにも関わらず悠久の時間の流れを体感させる、稀有な短編の一つでしたが、書き方によっては長い時間軸の中でもそのように書ける実例があるのです。私の場合、一体何が至らなかったのか、実は未だによく分かっておりませんが、構造、描写などを包括して全体に及ぶ、小説の総体的な思考量が足らなかったと今では考えています。
小説の総体的な思考量とは、我ながら何とも抽象的なもの言いだと思いますが、例えばプロットの構築や、エピソードの取捨選択(編集)といった、小説の成立の一部である個々の要素ではなく、それが全体であるが故に漠然として一見捕え難いもののような気がしています。強いて言えば、固有の小説を成立させる、その小説固有の文体を最後まで摑み切れなかったと、自分では思っています。短い枚数の中で長い時間軸を横断させ、その長いという感覚を読者に捕えて貰うには、結果的にはエピソードの段積みになってしまった叙述の形ではなく、もっと様々な時間が溶け合うような叙述の形があったのではないかと、この小説を離れた部分で、今でもそれについて考えることがあります。
一方、このような作品固有の叙述に思いを巡らせると、即興で書くということとある箇所では相反する、ある種の小説を俯瞰図として捕える必要もあるのかも知れませんが、即興による叙述を崩さないまま、固有の叙述を見出していくことは本当に不可能なのだろうかといったことが、個々の小説の題材や描きたいことから離れて、小説自体について直近で考えていることの一つです。
もう一つ書くに当たって念頭に置いていたのが即興で書くことでしたが、このことは寂しい女性の半生を描きたいと思ったことと、無意識下のうちに何処かで結び付いていた気がします。
乱暴に即興で描きたい人とプロットを構築したい人で分けたとして、登場する人物や作品の舞台背景も含めた小説の中の世界の把握(制御)について、双方それぞれにアプローチや願望が異なるのではないかと、ここ数年そのように考えていました。綿密にプロットを構築したい人は、意図、人物の性格や行動心理、作中の世界像を自らが制御したい願望があり、即興で描きたい人は、何処かでその制御を逸脱したい願望があるのではないかと思っておりました。
私に限って言えば後者の気持ちが強く、私が制御した世界像を読者に提示したところで、それは箱庭並みの拡がりしかないのではないかという思いがあります。元々プロットに関心が薄いこともあり、途中で登場する男性を描くまではお話の方向がよく見えませんでしたし、題名にある「祈り」が何なのかについては、これがいい加減なところと言われればそれまでですが、結局書き終わった今でもよく分かっていませんが、自分ではそれでいいという確信があり、それに従って最後まで無事に書くことができました。それが読者の方からして面白いと思うのかどうかは、大きな問題だと思いますが。
即興で書く中で常に意識していたのは、寂しい女性の漠然とした佇まいでした。先の小説固有の叙述を捉え損ねたと典型的に思うのが、長い間孤独だった状態をエピソードの数珠繋ぎでしか描けず、時間として描けなかった点だと思いますが、そういったことを描くのが主な関心事だったことが、あまり主題や展開の把握といった方向性に関心が向かわなかった一因だと思います。
いずれにしても人間を描くのは難しいと改めて思いましたが、一応私はホラー小説家志望ですし、と曖昧に済ませることにします。
「祈り」については概ねそのような感じでしたが、本誌の宣伝用に配布したのが下記のフリーペーパーです。
-------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
FREE PAPER VOL.3
河野真也「きびなご」
江川太洋「鴨居」
-------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
(書影の画像がなく、他の画像を使っていますが、右下の数字が「3」になる以外は全く同じです)
これまでフリーペーパーには自作を一編だけ収録してましたが、フリーペーパーも複数の小説があれば面白かろうと思い、友人が何年も前に書いた小説の掲載をお願いしたところ快諾戴けたので、併録させて貰いました。
初めて読んだ時から私はこの小説が好きで、今回掲載できたことを個人的には嬉しく思っています。友人も自分で述べてましたが、元々映画志向である影響が顕著に出た、ある種シナリオのような断片の積み重ねで成立している一作だと思います。この小説から実に厭な画が見えました。
私が書いた「鴨居」ですが、「祈り」で締め切り間際になり、いよいよ短い話を短く書く必要に迫られて最初に別の小説を書き始めたのですが、書いて少ししてその話が短くならないことを知り、切羽詰まった挙句、「もう鴨居でいい!」と強引にでっち上げた、典型的なワンシチュエーションホラーです。私にとってはこれは最後の頼みのような手法で、できればあまり用いたくありませんでした。
鴨居でいいと居直った直後に作品の全容が見え、書くのに二日もかかっていないはずです。完成直後にそのまま校閲に突入し、この間は時間に追われていた厭な記憶しかなく、そのせいか後日読んで貰った友人から、「書き急いでたでしょ?」とズバリの指摘を頂戴する羽目になりました。面白いかどうかは不問として(という前提がすごいのですが)、短く書こうと思えばワンシチュエーションに限ることを実体験として得た小説であり、小説の短さという一点に拘泥すれば、あまり似た部分はなくとも自分の中では「祈り」と対を為しています。
実作を書く期間を通じて、短く書くことにとにかく執着していましたが、それが一体何故なのかと考えると、自分でも未だに理由がさっぱり分からないのです。私は小説のプロットに拘らない代わりに、このような条件付けに非常に囚われ易い類の人間で、たいてい小説のネタを考える際には、直接の展開ではなくこのような条件付けから考えることが大半です。
その他、「第7回 Text-Revolutions」に出展した際に、「テキレボアンソロ」というイベント内企画に参加した掌編が一つあります。
「テキレボアンソロ」とは、同イベントに参加した同人有志が、同一テーマの元に四千文字以内でweb上に小説を発表する企画です。第七回のお題は「海」で、私が書いたのは、「機械眼」という掌編になります。こちらもお暇な方がいましたらどうぞ。
作品コチラ→ https://text-revolutions.com/event/archives/7652
たった一冊の頒布で振り返りというのもおこがましいですが、来年は同人誌にはあまり拘らず、執筆に専念できる環境を整えて、執筆に励む一年にしたいと考えています。新年早々は環境を整えるのに腐心して時間が取れないと思いますが、落ち着いたらじっくり執筆に取り組もうと思っています。
差し当たって書くのは先の述べた通り、友人が主宰を買って出てくれた、「DAMMED TIHNG VOL.4」掲載用の小説になると思います。既に描きたいことはあり、たまにふと暇な時間ができたりした時にその小説のことを漠然と考えています。来年五月の刊行になるそうですので、ご興味のある方がいましたら、同人頒布イベントでお会いしましょう。
最後になりますが、当誌をお買い上げ戴きました読者の皆様に深い感謝の意を捧げつつ、炬燵でみかんでも食べながら新年を迎えたいと思います。ありがとうありがとう。以上です。
今後も同人誌を刊行したとしたら、実生活上の都合により年に一冊程度しか刊行できなくなると思いますが、折角始めたので活動は細々と続けようかなと、現時点では考えております。
(おことわり)
書いた小説の裏話をつらつら書いていきます。
ネタバレにはならないと思いますし、そもそも頒布数が少ないので問題ないかとは思いますが、少しでも情報は入れたくないという、当誌をご購入された方がおられましたら、本誌を読んだ後に読むことをお薦め致します。
昨年は見よう見真似で同人誌を二冊頒布し、途中までは今年も年二冊の刊行を想定していました。
昨年末にTwitterを始め、同人誌界隈での様々な催しの存在を知ったのを機に宣伝の一環として、「Twitter300字ss公募用掌編」というものを幾つか、当ブログにアップしていました。当ブログの「創作」カテゴリに掲載されています。お暇な方がいましたらどうぞ。
当誌がアメリカの怪奇幻想専門パルプ誌、「ウィアード・テイルズ」をモチーフにしていることは以前から述べている通りで、刊行すればするほど当然同じものに仕上がる訳もなく、むしろ「ウィアード・テイルズ」色は巻を追う毎に希薄になっていきましたが、あの雑誌には当時の社会情勢、文化圏、執筆者など、様々なものが不可避的に複雑に絡まった結果、あのテイストが産まれてきたのであり、幾ら表層だけを真似てもあの核心に近付くことは実質不可能ということを、通算三冊の刊行で身を以て知りました。
今は以前ほど「ウィアード・テイルズ」への拘りもなく、この時代の日本に生きる私たちが書いたものが、必然的にそれとは異なる別の何かになる事実を自然に受け止めています。このことは執筆にも共通すると思っていて、例えば十九世紀辺りの古色蒼然とした(それ故に魅力的な)、怪奇小説のテイストを今の時代に再現するのは実質不可能に近い、といった事情と全く同一のことと考えています。
先に述べたことの影響か否かはさておき、今回も原稿を依頼した際に一切の制限を設けなかった為、総体的にはむしろ日本固有の死生観や宗教観といったものを基調にした小説が集まり、私自身に至ってはもはやホラーかどうかも怪しい小説を書いていましたが、手前味噌ながら面白い小説が集まってくれたと思っています。
今年五月に開催された「第二十六回文学フリマ東京」、七月に開催された「第7回 Text-Revolutions」に出展したのが、以下の本になります。
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江川太洋「祈り」
はもへじ「柔術怪談」
河野真也「呪いの照明」
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人の小説をとやかく言う資格はないので、ここでは主に自分の作品のみ触れますが、簡単な他の方の作品紹介を。
二度目の寄稿となる、はもへじさんの「柔術怪談」は題名通りの、ある柔術道場に纏わる心霊譚で、当誌あとがきにもあるように、柔術ネタでホラーを書くようそそのかしたのは私です(すみませんでした…)。柔術の稽古の描写が頻出する割には、予想外(?)にも正調の心霊譚として手堅く読める一作になったかと思います。
当誌の巻末を飾るのは、毎回八面六臂の活躍を見せてくれる友人(ペンネームを構想中だそうです)が、最後はほぼ三轍で書き上げた渾身の一作、「呪いの照明」です。九州の山村を舞台に、駐在所勤務の警官が当地に纏わる呪いに巻き込まれる、土着ホラーの傑作です。当誌のクライマックスに相応しく読み応え十分ですので、ご興味のある方は来年のイベントで是非当誌をお買い求め下さい。友人が冗談で、作中に登場する神主のシリーズでも書くかなと言っておりましたが、是非ゴーストハントものとして書いて戴きたく思っております。
私が書いたのは、「祈り」という小説です。
書いた時期はうろ覚えですが、三月から四月にかけての約一ヶ月間ほどだった気がします。相変わらず度々書き直し、「時間がない、時間がない」と焦っていたのを覚えています。
この当時の専らの関心は短編を短い枚数できっちりと書くことで、これは昨年も挑んで上手くいかなかったので、今年こそはと意気込んだ結果、これまでで最長の長さになり、途中から短く書くこと自体を放棄してしまいました。登場人物の少なさに短い枚数の所産を求めたのが昨年の実作の失敗で、「DAMMED TIHNG VOL.2」所収の、はもへじさん「コンビニ夜話」を読んだ時に、時間軸自体の短さに所産を求めれば短い枚数で物語れることを知りました。自分では勝手にワンシチュエーションホラーと命名している、この形式に則ればそれが果たせることは理解しましたが、毎回続けても飽きられると頭を悩ませた結果、長い時間軸の話の中で短く語ることは可能かという問いを自らに課して書いたのが、「祈り」でした。
結果は先に述べた通りですが、例えば津原泰水の「土の枕」は、若き主人公の従軍体験から、土(土地、農作業)と共に生きることを選び老いた主人公の死までの長い生涯を、僅かな枚数であるにも関わらず悠久の時間の流れを体感させる、稀有な短編の一つでしたが、書き方によっては長い時間軸の中でもそのように書ける実例があるのです。私の場合、一体何が至らなかったのか、実は未だによく分かっておりませんが、構造、描写などを包括して全体に及ぶ、小説の総体的な思考量が足らなかったと今では考えています。
小説の総体的な思考量とは、我ながら何とも抽象的なもの言いだと思いますが、例えばプロットの構築や、エピソードの取捨選択(編集)といった、小説の成立の一部である個々の要素ではなく、それが全体であるが故に漠然として一見捕え難いもののような気がしています。強いて言えば、固有の小説を成立させる、その小説固有の文体を最後まで摑み切れなかったと、自分では思っています。短い枚数の中で長い時間軸を横断させ、その長いという感覚を読者に捕えて貰うには、結果的にはエピソードの段積みになってしまった叙述の形ではなく、もっと様々な時間が溶け合うような叙述の形があったのではないかと、この小説を離れた部分で、今でもそれについて考えることがあります。
一方、このような作品固有の叙述に思いを巡らせると、即興で書くということとある箇所では相反する、ある種の小説を俯瞰図として捕える必要もあるのかも知れませんが、即興による叙述を崩さないまま、固有の叙述を見出していくことは本当に不可能なのだろうかといったことが、個々の小説の題材や描きたいことから離れて、小説自体について直近で考えていることの一つです。
もう一つ書くに当たって念頭に置いていたのが即興で書くことでしたが、このことは寂しい女性の半生を描きたいと思ったことと、無意識下のうちに何処かで結び付いていた気がします。
乱暴に即興で描きたい人とプロットを構築したい人で分けたとして、登場する人物や作品の舞台背景も含めた小説の中の世界の把握(制御)について、双方それぞれにアプローチや願望が異なるのではないかと、ここ数年そのように考えていました。綿密にプロットを構築したい人は、意図、人物の性格や行動心理、作中の世界像を自らが制御したい願望があり、即興で描きたい人は、何処かでその制御を逸脱したい願望があるのではないかと思っておりました。
私に限って言えば後者の気持ちが強く、私が制御した世界像を読者に提示したところで、それは箱庭並みの拡がりしかないのではないかという思いがあります。元々プロットに関心が薄いこともあり、途中で登場する男性を描くまではお話の方向がよく見えませんでしたし、題名にある「祈り」が何なのかについては、これがいい加減なところと言われればそれまでですが、結局書き終わった今でもよく分かっていませんが、自分ではそれでいいという確信があり、それに従って最後まで無事に書くことができました。それが読者の方からして面白いと思うのかどうかは、大きな問題だと思いますが。
即興で書く中で常に意識していたのは、寂しい女性の漠然とした佇まいでした。先の小説固有の叙述を捉え損ねたと典型的に思うのが、長い間孤独だった状態をエピソードの数珠繋ぎでしか描けず、時間として描けなかった点だと思いますが、そういったことを描くのが主な関心事だったことが、あまり主題や展開の把握といった方向性に関心が向かわなかった一因だと思います。
いずれにしても人間を描くのは難しいと改めて思いましたが、一応私はホラー小説家志望ですし、と曖昧に済ませることにします。
「祈り」については概ねそのような感じでしたが、本誌の宣伝用に配布したのが下記のフリーペーパーです。
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河野真也「きびなご」
江川太洋「鴨居」
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(書影の画像がなく、他の画像を使っていますが、右下の数字が「3」になる以外は全く同じです)
これまでフリーペーパーには自作を一編だけ収録してましたが、フリーペーパーも複数の小説があれば面白かろうと思い、友人が何年も前に書いた小説の掲載をお願いしたところ快諾戴けたので、併録させて貰いました。
初めて読んだ時から私はこの小説が好きで、今回掲載できたことを個人的には嬉しく思っています。友人も自分で述べてましたが、元々映画志向である影響が顕著に出た、ある種シナリオのような断片の積み重ねで成立している一作だと思います。この小説から実に厭な画が見えました。
私が書いた「鴨居」ですが、「祈り」で締め切り間際になり、いよいよ短い話を短く書く必要に迫られて最初に別の小説を書き始めたのですが、書いて少ししてその話が短くならないことを知り、切羽詰まった挙句、「もう鴨居でいい!」と強引にでっち上げた、典型的なワンシチュエーションホラーです。私にとってはこれは最後の頼みのような手法で、できればあまり用いたくありませんでした。
鴨居でいいと居直った直後に作品の全容が見え、書くのに二日もかかっていないはずです。完成直後にそのまま校閲に突入し、この間は時間に追われていた厭な記憶しかなく、そのせいか後日読んで貰った友人から、「書き急いでたでしょ?」とズバリの指摘を頂戴する羽目になりました。面白いかどうかは不問として(という前提がすごいのですが)、短く書こうと思えばワンシチュエーションに限ることを実体験として得た小説であり、小説の短さという一点に拘泥すれば、あまり似た部分はなくとも自分の中では「祈り」と対を為しています。
実作を書く期間を通じて、短く書くことにとにかく執着していましたが、それが一体何故なのかと考えると、自分でも未だに理由がさっぱり分からないのです。私は小説のプロットに拘らない代わりに、このような条件付けに非常に囚われ易い類の人間で、たいてい小説のネタを考える際には、直接の展開ではなくこのような条件付けから考えることが大半です。
その他、「第7回 Text-Revolutions」に出展した際に、「テキレボアンソロ」というイベント内企画に参加した掌編が一つあります。
「テキレボアンソロ」とは、同イベントに参加した同人有志が、同一テーマの元に四千文字以内でweb上に小説を発表する企画です。第七回のお題は「海」で、私が書いたのは、「機械眼」という掌編になります。こちらもお暇な方がいましたらどうぞ。
作品コチラ→ https://text-revolutions.com/event/archives/7652
たった一冊の頒布で振り返りというのもおこがましいですが、来年は同人誌にはあまり拘らず、執筆に専念できる環境を整えて、執筆に励む一年にしたいと考えています。新年早々は環境を整えるのに腐心して時間が取れないと思いますが、落ち着いたらじっくり執筆に取り組もうと思っています。
差し当たって書くのは先の述べた通り、友人が主宰を買って出てくれた、「DAMMED TIHNG VOL.4」掲載用の小説になると思います。既に描きたいことはあり、たまにふと暇な時間ができたりした時にその小説のことを漠然と考えています。来年五月の刊行になるそうですので、ご興味のある方がいましたら、同人頒布イベントでお会いしましょう。
最後になりますが、当誌をお買い上げ戴きました読者の皆様に深い感謝の意を捧げつつ、炬燵でみかんでも食べながら新年を迎えたいと思います。ありがとうありがとう。以上です。
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2017年の活動状況
ブログの主旨が同人誌の活動報告なのに、あまりにも更新頻度に乏しい為、今年一年の同人活動を振り返ることにしました。
ツイッターを始めたのはごく最近ですが、そこで他のサークルさんの活動状況や創作の裏話などを、興味深く拝読させて戴いたこともあり、次年度への反省等も含めて、活動を振り返るのも良い機会かなと思いました。
(おことわり)
書いた小説の裏話をつらつら書いていきます。
ネタバレにはならないと思いますし、そもそも頒布数が少ないので問題ないかとは思いますが、少しでも情報は入れたくないという、当誌をご購入された方がおられましたら、本誌を読んだ後に読むことをお薦め致します。
そもそも、同人イベントに行ったこともなければ、同人誌自体を読んだこと自体が殆どなかったので、下見のつもりで、昨年11月の第23回文学フリマに一般客として行き、ホラー系の何冊かの同人誌を読み、既に同人誌の創刊経験のある方に色々と教えを乞い、周知活動の一環としてブログを開設し…といった具合で、昨年は細々と下準備を進めておりました。
当誌に2回続けてご寄稿戴いた友人(今、ペンネームを考えているそうですので、あえて名は伏せます)に、寄稿のお願いをしたのも、この時期だった気がします。表紙のイラストなども担当して戴き、大変感謝しております。
同人誌の青写真としてあったのが、以前も述べましたが、アメリカの怪奇幻想専門パルプ誌、「ウィアード・テイルズ」でした。創刊号のテーマを怪物としたのは、「ウィアード・テイルズ」へのオマージュからです。
今後、同人誌にテーマを設けるか否かについてですが、基本的にはノーテーマの方針で行きたいと思います。
そもそも、「ウィアード・テイルズ」自体が、SFあり、ファンタジーあり、犯罪小説の流れからのものもあり…といった具合に、ジャンルのごった煮でしたし、個人的にも書く際は、なるべく自由に伸び伸びと書きたいので、仮に特集があっても稀になると思います。
来年はできれば、他のサークルさんのアンソロジーに参加できればと思っておりますが、これについては、テーマの拘束下で書くことを課すといった感じで、個人的には修行と位置付けております。
そういった経緯から、ドタバタとどうにか創刊に漕ぎ着けたのが、下記の同人誌です。
今年5月の、第24回文学フリマ東京に出展したのが、下記の2冊になります。
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DAMMED TIHNG VOL.1
河野真也「やまびこ」
江川太洋「犬と老人」
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ここでは自分の作品のみ触れます。
因みに「やまびこ」ですが、正調の心霊実話作法に則った、じわじわと怖い(面白い)小説ですので、是非読んで戴ければと思います。
「犬と老人」ですが、元々は後述する「FREE PAPER VOL.1」に発表した、「影が呼ぶ」という短編を本誌に掲載するはずでした。
昨年の文学フリマに行った時に、製本されたフリーペーパーがあることに感銘を受けて、自分も創刊の折には、製本されたフリーペーパーを発行したいと思いました。フリーペーパー用の原稿を間に合わせる為に、短くて済むお話をと、半ばデッチ上げのように考えたのが、「犬と老人」でした。
後述する「影が呼ぶ」に非常に時間を取られ、猶予が殆どなかった為、「犬と老人」は、ほぼ二徹で訳も分からずに書いた短編です。そもそも「影が呼ぶ」自体が、主な登場人物がたった二人しか出ないのに、想定以上に長い話になった反省から、人が一人と犬なら、もっと短くなるだろうと書いたら、もっと長くなってしまったというのが実情です。結果的には、掲載する作品を入れ替えて正解だったかなと、自分では思っております。
他ですが、
テーマが怪物ですので、「わんさか怪物が出る小説」
「誰も知らない、孤独な闘いを描く」
こういうことがやりたくて書いた小説です。
私は原則的には、プロットは立てません。たいていいきなり書き始めます。何故プロットを立てないかといいますと、作るのが苦手というのもありますが、それ以上にプロットに縛られずに、自由に書きたい気持ちが強いからです。
予め筋の流れが見えるということは、著者にとっては作中の未来が見えるということで、それがとても嫌です。自分の時間感覚と合致しません。書いていて、自分でも何が起きるか分からない方が好きですし、そういう狭い視野を手探りで歩むことでしか見えない、「何か」が描ければ、という気持ちがいつも念頭にあります。
即興で書いて行き詰まった場合は、行き詰まった起点まで遡って、もう一度そこから書き直します。最初から書き直すこともよくあります。
「犬と老人」はとにかく勢いだけで書きましたので、「あ、こういう話なのね」と自分で思えたのは、作中の後半で、犬が怪物に捕まる場面を書いている時でした。
余談ですが「DAMMED THING VOL.1」で大変だったのは、執筆よりも入稿用データの作成の方でした。誤字脱字多数、印字の濃さの違いなど、酷い仕上がりの癖に何言ってんだ…と思われるでしょうが、最後まで印刷屋さんから確認連絡が来るなど、GW期間は気が気ではなかったのを覚えてます。
本誌の宣伝用に配布しましたのが、下記のフリーペーパーです。
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FREE PAPER VOL.1
江川太洋「影が呼ぶ」
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先に述べた通りで、元はこちらを本誌用に書いてましたので、この短編も怪物テーマの小説になります。
この時は、本当にネタが浮かばず四苦八苦しました。
例えば「怪物」など、テーマから発想をすると、私の場合、たいていドツボに嵌まるようです。実は実現しなかった、書きたい怪物テーマの小説があったのですが、これは取材が必要だと思い、取材のノウハウも皆無だった為、取材なしで書ける小説を…ということで、つらつらと考えていた記憶があります。
怪物といえば、怪物がバリバリ暴れ回るパワフルなお話だろ、という思い込みがあり、そういうお話を書きたかったのですが、結果は読んでの通りで、そういうのとはちょっと違うお話になっています。プロットを立てずに書くと、よくこういう結果になりますが、自分では素直に流れに従った結果と受け止めています。
この時、ネタ出しの為に考えていたことが、怪物は一体何処から来るのだろう、という疑問でした。それは異次元からに違いないというのが、私の出した安直な答えですが、その異次元を繋ぐ回路が、人間の記憶の中にあったとしたら…そういう発想で書いた小説です。
また、たまに通うバーの店長さんから聞いた実話――中学の時、何かの壁を見たら、壁一面に顔が浮かび上がっていた、という逸話が念頭にありました。家の中に顔を見て、それが壁伝いにいつまでも続いている、それを辿っていくと、次第にもう取り壊された、過去にしか「ない」部屋に辿り着く、そこは事件の起きた場所だった…こういう展開を考えておりました。
書くのにかなり難儀して、一月くらい何度か書き直したのを覚えています。最初は妻の視点から描いていましたが、どちら側から描いた方が怖いのかを考え直して、夫の視点に替えてもう一度最初から書き直しました。
約半年後の今年の11月、第25回文学フリマ東京に出展したのが、下記の2冊になります。
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DAMMED THING VOL.2
はもへじ「コンビニ夜話」
河野真也「カスタム」
江川太洋(原作:河野真也)「鳩」
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今回も友人が、小説の寄稿、表紙デザインなど、八面六臂の大活躍を見せてくれました。
はもへじさんですが、当ブログ経由で面識を得て、面談の上、小説を寄稿戴ける運びになりました。「コンビニ夜話」は、当人が言っておりました、「エロいホラーが書きたい」という狙い通りの一編です。
前回に引き続き、寄稿を戴いた友人の「カスタム」ですが、作品自体に恨みの念がたっぷりと込められた、なかなか壮絶な一編です。
「鳩」につきましては、巻末のコメントにもありますが、実は友人が二十年前に撮影までしながら、諸事情で頓挫した、映画の脚本が原作です。私は原作を読んだ時から、これは面白いなと思ってまして、撮影が頓挫したのもあり、この作品を世に送り出す機会を作れればと思い、友人の承諾を得て小説化しました。所謂ノベライズに非常に近い執筆体勢でした。
後に原作者の友人に読んで貰いましたが、「原作とは全く違う話」になっているそうです。
かなり意図的に改竄を加えましたが、原作でやっていることが面白いので、設定をそのまま残してある箇所もあります。
この小説は本当に難儀しました。何度書き直したか分からないくらい、とにかく書き直してました。執筆には二ヶ月くらいかかったと思います。全く筆が動かなくなった時は、また主役の性別を替えるという方法で、どうにか乗り切りました。
難儀した理由は様々ですが、一番の理由は、この原作(または自分が書いている小説)自体が何なのか、私には全く分かっていなかったからです。正直に言いまして、書き終わった今もよく分かっていないのですが、分からないけど面白いと感じたことを、そのまま書いて良いのか、といった部分で相当逡巡したのを覚えています。分からなくても大丈夫という結論を得るのに、何度も書き直す必要がありました。
プロットもいらなければ、テーマもいらないと、自分の中では大きな気付きを得た作品でもあります。
題名にもある、「鳩」の扱いにも、頭を悩ませました。これは何を意味しているのか…などと一端考え出すともう駄目で、この思考ループから脱却するのに、けっこうな時間を要しました。結果、得た答えは実に単純なもので、「鳩は鳩だろ、意味なんてねえよ」というものでした。要所で鳩を描写すれば成立すると確信を得るまでに、数回書き直しております。
この小説では、怪異の原因などについては一切触れられておりませんが、それは意図的にそうしました。私は、怪異は融通無碍なものだと思っていますので、作中で因果が明らかになる必要は全くないと思っております。そういう姿勢が露骨に出た小説だと思います。
作中の怪異を体現する、ある人物が、一体何者なのかということについては、実は私の中ではある程度答えがあるのですが、分かったところで特に大事とも思えませんので、ここで触れるのは控えます。
この小説を書く中で、「力を振り絞って書く」ということを経験できたのは、私にとっては実に得難い経験でした。この体感が身体の一部にまだ残っていれば、いつか、またそこまで辿り着けるのでは、と思っております。今もそれを目指して、別の小説を書いているところです。
仕上がりの巧拙については色々あると思いますが、これが現時点でのベストと、自分では思っております。
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FREE PAPER VOL.2
江川太洋「スマホロイド」
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この小説は、前述の「鳩」に時間がかかり過ぎて、新作を執筆できなかったので、ピックアップした過去作になります。新作を書けなかったのには、今でも悔いが残っております。
満員電車の狭い空間内で、無理にスマホを見る人に本当に苛々していて、スマホの角が背中に当たって痛かったりするのです。あれは本当にご勘弁下さい。
作中で、そういう人間をけちょんけちょんにしてやる、という子供じみた動機だけで書いた小説です。
書いている間は、無闇に面白かったのを覚えております。
あと、最近何かと世相が息苦しいという漠然とした思いがあって、それは多少作中に反映させたいとも思っておりました。
それ以上、この小説について述べることはありません。
今年一年はこのような感じでした。
頒布数は恥ずかしいので控えますが…とにかく本が売れませんでした(涙)
事前の周知活動も必要なのではと思い、ツイッターを始めたのがつい先日でした。これは執筆と同じくらい、私の中では大きな体験でした。私はこういうイベントは文学フリマしか知りませんでしたが、まだまだ同様のイベントがあることや、他のサークルさんの取り組みなども、非常に参考になりました。
ツイッター上では、アンソロジーの参加告知も活発に行われておりますので、来年は我々の冊子だけではなく、武者修行のつもりで、アンソロジーにも参加できればと思っております。書く量を増やせれば、書きたいお話は幾らでもあるのです。
同人誌を出して人目に触れることで得た幾つかのご感想は、自分にとっては大きな励みですが、私の場合、それよりも大きかったのは、とにかく外部的に締め切りを設けて、書く環境を強引に作ったことで、自発的に書くようになったことに尽きます。
一つ告白しますが、今は執筆に使っているPCのすぐ上の壁に、受験生みたいに貼り紙をしています。それを見ますと、仕事疲れで消耗した夜も、少しは書こうかなという机に向かう気になります。
私には実に効果的でしたので、腰が重いとお悩みの方がいましたら、お薦めしたい次第です。
他、5月から11月の半年の猶予期間中に、発表する見込みのない中編を一つ、短めの長編を一つ書いております。
発表に値しないとの判断から、それらの作品は手を加えない限り、何処かに発表する機会はないと思います。
自分には、長編執筆は万里の長城並みに遠いと思っておりましたが、書くと意外とそうでもないなあと思えたのは、大きな経験でした。執筆には、「鳩」の方が、よっぽど時間がかかっております。
来年は、ちゃんと発表できると思える長編を書くというのが、私の密かな想いです。
ツイッターを始めたのはごく最近ですが、そこで他のサークルさんの活動状況や創作の裏話などを、興味深く拝読させて戴いたこともあり、次年度への反省等も含めて、活動を振り返るのも良い機会かなと思いました。
(おことわり)
書いた小説の裏話をつらつら書いていきます。
ネタバレにはならないと思いますし、そもそも頒布数が少ないので問題ないかとは思いますが、少しでも情報は入れたくないという、当誌をご購入された方がおられましたら、本誌を読んだ後に読むことをお薦め致します。
そもそも、同人イベントに行ったこともなければ、同人誌自体を読んだこと自体が殆どなかったので、下見のつもりで、昨年11月の第23回文学フリマに一般客として行き、ホラー系の何冊かの同人誌を読み、既に同人誌の創刊経験のある方に色々と教えを乞い、周知活動の一環としてブログを開設し…といった具合で、昨年は細々と下準備を進めておりました。
当誌に2回続けてご寄稿戴いた友人(今、ペンネームを考えているそうですので、あえて名は伏せます)に、寄稿のお願いをしたのも、この時期だった気がします。表紙のイラストなども担当して戴き、大変感謝しております。
同人誌の青写真としてあったのが、以前も述べましたが、アメリカの怪奇幻想専門パルプ誌、「ウィアード・テイルズ」でした。創刊号のテーマを怪物としたのは、「ウィアード・テイルズ」へのオマージュからです。
今後、同人誌にテーマを設けるか否かについてですが、基本的にはノーテーマの方針で行きたいと思います。
そもそも、「ウィアード・テイルズ」自体が、SFあり、ファンタジーあり、犯罪小説の流れからのものもあり…といった具合に、ジャンルのごった煮でしたし、個人的にも書く際は、なるべく自由に伸び伸びと書きたいので、仮に特集があっても稀になると思います。
来年はできれば、他のサークルさんのアンソロジーに参加できればと思っておりますが、これについては、テーマの拘束下で書くことを課すといった感じで、個人的には修行と位置付けております。
そういった経緯から、ドタバタとどうにか創刊に漕ぎ着けたのが、下記の同人誌です。
今年5月の、第24回文学フリマ東京に出展したのが、下記の2冊になります。
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河野真也「やまびこ」
江川太洋「犬と老人」
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ここでは自分の作品のみ触れます。
因みに「やまびこ」ですが、正調の心霊実話作法に則った、じわじわと怖い(面白い)小説ですので、是非読んで戴ければと思います。
「犬と老人」ですが、元々は後述する「FREE PAPER VOL.1」に発表した、「影が呼ぶ」という短編を本誌に掲載するはずでした。
昨年の文学フリマに行った時に、製本されたフリーペーパーがあることに感銘を受けて、自分も創刊の折には、製本されたフリーペーパーを発行したいと思いました。フリーペーパー用の原稿を間に合わせる為に、短くて済むお話をと、半ばデッチ上げのように考えたのが、「犬と老人」でした。
後述する「影が呼ぶ」に非常に時間を取られ、猶予が殆どなかった為、「犬と老人」は、ほぼ二徹で訳も分からずに書いた短編です。そもそも「影が呼ぶ」自体が、主な登場人物がたった二人しか出ないのに、想定以上に長い話になった反省から、人が一人と犬なら、もっと短くなるだろうと書いたら、もっと長くなってしまったというのが実情です。結果的には、掲載する作品を入れ替えて正解だったかなと、自分では思っております。
他ですが、
テーマが怪物ですので、「わんさか怪物が出る小説」
「誰も知らない、孤独な闘いを描く」
こういうことがやりたくて書いた小説です。
私は原則的には、プロットは立てません。たいていいきなり書き始めます。何故プロットを立てないかといいますと、作るのが苦手というのもありますが、それ以上にプロットに縛られずに、自由に書きたい気持ちが強いからです。
予め筋の流れが見えるということは、著者にとっては作中の未来が見えるということで、それがとても嫌です。自分の時間感覚と合致しません。書いていて、自分でも何が起きるか分からない方が好きですし、そういう狭い視野を手探りで歩むことでしか見えない、「何か」が描ければ、という気持ちがいつも念頭にあります。
即興で書いて行き詰まった場合は、行き詰まった起点まで遡って、もう一度そこから書き直します。最初から書き直すこともよくあります。
「犬と老人」はとにかく勢いだけで書きましたので、「あ、こういう話なのね」と自分で思えたのは、作中の後半で、犬が怪物に捕まる場面を書いている時でした。
余談ですが「DAMMED THING VOL.1」で大変だったのは、執筆よりも入稿用データの作成の方でした。誤字脱字多数、印字の濃さの違いなど、酷い仕上がりの癖に何言ってんだ…と思われるでしょうが、最後まで印刷屋さんから確認連絡が来るなど、GW期間は気が気ではなかったのを覚えてます。
本誌の宣伝用に配布しましたのが、下記のフリーペーパーです。
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江川太洋「影が呼ぶ」
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先に述べた通りで、元はこちらを本誌用に書いてましたので、この短編も怪物テーマの小説になります。
この時は、本当にネタが浮かばず四苦八苦しました。
例えば「怪物」など、テーマから発想をすると、私の場合、たいていドツボに嵌まるようです。実は実現しなかった、書きたい怪物テーマの小説があったのですが、これは取材が必要だと思い、取材のノウハウも皆無だった為、取材なしで書ける小説を…ということで、つらつらと考えていた記憶があります。
怪物といえば、怪物がバリバリ暴れ回るパワフルなお話だろ、という思い込みがあり、そういうお話を書きたかったのですが、結果は読んでの通りで、そういうのとはちょっと違うお話になっています。プロットを立てずに書くと、よくこういう結果になりますが、自分では素直に流れに従った結果と受け止めています。
この時、ネタ出しの為に考えていたことが、怪物は一体何処から来るのだろう、という疑問でした。それは異次元からに違いないというのが、私の出した安直な答えですが、その異次元を繋ぐ回路が、人間の記憶の中にあったとしたら…そういう発想で書いた小説です。
また、たまに通うバーの店長さんから聞いた実話――中学の時、何かの壁を見たら、壁一面に顔が浮かび上がっていた、という逸話が念頭にありました。家の中に顔を見て、それが壁伝いにいつまでも続いている、それを辿っていくと、次第にもう取り壊された、過去にしか「ない」部屋に辿り着く、そこは事件の起きた場所だった…こういう展開を考えておりました。
書くのにかなり難儀して、一月くらい何度か書き直したのを覚えています。最初は妻の視点から描いていましたが、どちら側から描いた方が怖いのかを考え直して、夫の視点に替えてもう一度最初から書き直しました。
約半年後の今年の11月、第25回文学フリマ東京に出展したのが、下記の2冊になります。
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はもへじ「コンビニ夜話」
河野真也「カスタム」
江川太洋(原作:河野真也)「鳩」
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今回も友人が、小説の寄稿、表紙デザインなど、八面六臂の大活躍を見せてくれました。
はもへじさんですが、当ブログ経由で面識を得て、面談の上、小説を寄稿戴ける運びになりました。「コンビニ夜話」は、当人が言っておりました、「エロいホラーが書きたい」という狙い通りの一編です。
前回に引き続き、寄稿を戴いた友人の「カスタム」ですが、作品自体に恨みの念がたっぷりと込められた、なかなか壮絶な一編です。
「鳩」につきましては、巻末のコメントにもありますが、実は友人が二十年前に撮影までしながら、諸事情で頓挫した、映画の脚本が原作です。私は原作を読んだ時から、これは面白いなと思ってまして、撮影が頓挫したのもあり、この作品を世に送り出す機会を作れればと思い、友人の承諾を得て小説化しました。所謂ノベライズに非常に近い執筆体勢でした。
後に原作者の友人に読んで貰いましたが、「原作とは全く違う話」になっているそうです。
かなり意図的に改竄を加えましたが、原作でやっていることが面白いので、設定をそのまま残してある箇所もあります。
この小説は本当に難儀しました。何度書き直したか分からないくらい、とにかく書き直してました。執筆には二ヶ月くらいかかったと思います。全く筆が動かなくなった時は、また主役の性別を替えるという方法で、どうにか乗り切りました。
難儀した理由は様々ですが、一番の理由は、この原作(または自分が書いている小説)自体が何なのか、私には全く分かっていなかったからです。正直に言いまして、書き終わった今もよく分かっていないのですが、分からないけど面白いと感じたことを、そのまま書いて良いのか、といった部分で相当逡巡したのを覚えています。分からなくても大丈夫という結論を得るのに、何度も書き直す必要がありました。
プロットもいらなければ、テーマもいらないと、自分の中では大きな気付きを得た作品でもあります。
題名にもある、「鳩」の扱いにも、頭を悩ませました。これは何を意味しているのか…などと一端考え出すともう駄目で、この思考ループから脱却するのに、けっこうな時間を要しました。結果、得た答えは実に単純なもので、「鳩は鳩だろ、意味なんてねえよ」というものでした。要所で鳩を描写すれば成立すると確信を得るまでに、数回書き直しております。
この小説では、怪異の原因などについては一切触れられておりませんが、それは意図的にそうしました。私は、怪異は融通無碍なものだと思っていますので、作中で因果が明らかになる必要は全くないと思っております。そういう姿勢が露骨に出た小説だと思います。
作中の怪異を体現する、ある人物が、一体何者なのかということについては、実は私の中ではある程度答えがあるのですが、分かったところで特に大事とも思えませんので、ここで触れるのは控えます。
この小説を書く中で、「力を振り絞って書く」ということを経験できたのは、私にとっては実に得難い経験でした。この体感が身体の一部にまだ残っていれば、いつか、またそこまで辿り着けるのでは、と思っております。今もそれを目指して、別の小説を書いているところです。
仕上がりの巧拙については色々あると思いますが、これが現時点でのベストと、自分では思っております。
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江川太洋「スマホロイド」
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この小説は、前述の「鳩」に時間がかかり過ぎて、新作を執筆できなかったので、ピックアップした過去作になります。新作を書けなかったのには、今でも悔いが残っております。
満員電車の狭い空間内で、無理にスマホを見る人に本当に苛々していて、スマホの角が背中に当たって痛かったりするのです。あれは本当にご勘弁下さい。
作中で、そういう人間をけちょんけちょんにしてやる、という子供じみた動機だけで書いた小説です。
書いている間は、無闇に面白かったのを覚えております。
あと、最近何かと世相が息苦しいという漠然とした思いがあって、それは多少作中に反映させたいとも思っておりました。
それ以上、この小説について述べることはありません。
今年一年はこのような感じでした。
頒布数は恥ずかしいので控えますが…とにかく本が売れませんでした(涙)
事前の周知活動も必要なのではと思い、ツイッターを始めたのがつい先日でした。これは執筆と同じくらい、私の中では大きな体験でした。私はこういうイベントは文学フリマしか知りませんでしたが、まだまだ同様のイベントがあることや、他のサークルさんの取り組みなども、非常に参考になりました。
ツイッター上では、アンソロジーの参加告知も活発に行われておりますので、来年は我々の冊子だけではなく、武者修行のつもりで、アンソロジーにも参加できればと思っております。書く量を増やせれば、書きたいお話は幾らでもあるのです。
同人誌を出して人目に触れることで得た幾つかのご感想は、自分にとっては大きな励みですが、私の場合、それよりも大きかったのは、とにかく外部的に締め切りを設けて、書く環境を強引に作ったことで、自発的に書くようになったことに尽きます。
一つ告白しますが、今は執筆に使っているPCのすぐ上の壁に、受験生みたいに貼り紙をしています。それを見ますと、仕事疲れで消耗した夜も、少しは書こうかなという机に向かう気になります。
私には実に効果的でしたので、腰が重いとお悩みの方がいましたら、お薦めしたい次第です。
他、5月から11月の半年の猶予期間中に、発表する見込みのない中編を一つ、短めの長編を一つ書いております。
発表に値しないとの判断から、それらの作品は手を加えない限り、何処かに発表する機会はないと思います。
自分には、長編執筆は万里の長城並みに遠いと思っておりましたが、書くと意外とそうでもないなあと思えたのは、大きな経験でした。執筆には、「鳩」の方が、よっぽど時間がかかっております。
来年は、ちゃんと発表できると思える長編を書くというのが、私の密かな想いです。
文学フリマ申し込みました
今年の5月7日(日)、東京流通センターの第二展示場で開催される、
第二十四回文学フリマ東京に、出店の申請をして、ブースを1つ確保しました。
実はまだ、同人誌は影も形もできていないのですが、
とりあえずやるんだ!ということで、先に押さえてしまいました。
カテゴリの「はじめまして」の欄でも記しましたが、「ウィアード・テイルズ」もどきの、短編中心の、
ホラー小説専門誌を創刊したいと考えています。
体裁等はまだ未定ですが、今は同人誌に参加してくれる方と、少しずつ詰めている段階です。
このブログを、どれだけの方が、読んで戴けているのかは分かりませんが、
主旨が同人誌の活動状況の告知ですので、晴れて発表できる段階になりましたら、また告知したいと思います。
勿論自分でも、何らかの作品を発表するつもりですが、そちらはまだ何も考えておらず…。
ほんとに、何とかなるのでしょうか…?
私は一体、誰に訊いているのでしょうか…?
いや、やるしかないので、何とかします!いつも試験は一夜漬けでしたから。
きっと今回も、何とかなる(はず)。
第二十四回文学フリマ東京に、出店の申請をして、ブースを1つ確保しました。
実はまだ、同人誌は影も形もできていないのですが、
とりあえずやるんだ!ということで、先に押さえてしまいました。
カテゴリの「はじめまして」の欄でも記しましたが、「ウィアード・テイルズ」もどきの、短編中心の、
ホラー小説専門誌を創刊したいと考えています。
体裁等はまだ未定ですが、今は同人誌に参加してくれる方と、少しずつ詰めている段階です。
このブログを、どれだけの方が、読んで戴けているのかは分かりませんが、
主旨が同人誌の活動状況の告知ですので、晴れて発表できる段階になりましたら、また告知したいと思います。
勿論自分でも、何らかの作品を発表するつもりですが、そちらはまだ何も考えておらず…。
ほんとに、何とかなるのでしょうか…?
私は一体、誰に訊いているのでしょうか…?
いや、やるしかないので、何とかします!いつも試験は一夜漬けでしたから。
きっと今回も、何とかなる(はず)。
文学フリマ行ってきました
第23回文学フリマに行ってきました。
場所は東京流通センターの、第二展示場です。
体調が思わしくなかったので、2時間ほどで帰ってきました。
同人誌を始めたいという割りには、同人誌について全く明るくなかったので、
下調べも兼ねて、何冊かホラー系の同人誌を買ってきました。
私はできれば、自分が作品を発表したいと思う方なので、同人誌を立ち上げるまでの間、
既に活動されているサークルさんに参加できないか、と考えておりましたので、
気になったサークルさんに、「小説を書かせて戴けませんか?」と訊いたところ、無事、快諾を戴けました。
いきなり不躾な問い合わせだったにも関わらず、ありがとうございます。
とても緊張しましたが、声をかけてみて良かったです。これで当初の目的を果たせました。
以下が買った本です。
これからゆっくり読ませて戴きます。
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迷えるグリムの世界
狂った歯車堂
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テーマ別で同人誌を創刊されているようです。
今作のテーマは、グリム童話の新釈だそうです。
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迷い家通信 妖ノ章
迷い家
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ホラー専門誌(だったかな?記憶違いでしたらすみません)とのことです。
私如き後進の新参者からすると、非常に心強い限りです。
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イングルヌック 2016年 第2号
イングルヌック
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お二人で活動されているようです。
前作は即興で制作されて、話題を呼んだようです。
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ゆびさき怪談(青)
薄禍企画
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岩城裕明氏など、殆どの同人がプロデビューを果たしている(日本ホラー小説大賞受賞者多し!)サークルです。
内容は130文字の怪談集です。値段も100円と手頃でした。
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人体ホラー
開式堂
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人体の各部位を題材にしたアンソロジーです。
小説誌の創刊の他、フリーペーパーの発行も行っているそうです。
場所は東京流通センターの、第二展示場です。
体調が思わしくなかったので、2時間ほどで帰ってきました。
同人誌を始めたいという割りには、同人誌について全く明るくなかったので、
下調べも兼ねて、何冊かホラー系の同人誌を買ってきました。
私はできれば、自分が作品を発表したいと思う方なので、同人誌を立ち上げるまでの間、
既に活動されているサークルさんに参加できないか、と考えておりましたので、
気になったサークルさんに、「小説を書かせて戴けませんか?」と訊いたところ、無事、快諾を戴けました。
いきなり不躾な問い合わせだったにも関わらず、ありがとうございます。
とても緊張しましたが、声をかけてみて良かったです。これで当初の目的を果たせました。
以下が買った本です。
これからゆっくり読ませて戴きます。
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狂った歯車堂
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テーマ別で同人誌を創刊されているようです。
今作のテーマは、グリム童話の新釈だそうです。
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迷い家
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ホラー専門誌(だったかな?記憶違いでしたらすみません)とのことです。
私如き後進の新参者からすると、非常に心強い限りです。
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イングルヌック
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お二人で活動されているようです。
前作は即興で制作されて、話題を呼んだようです。
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薄禍企画
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岩城裕明氏など、殆どの同人がプロデビューを果たしている(日本ホラー小説大賞受賞者多し!)サークルです。
内容は130文字の怪談集です。値段も100円と手頃でした。
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開式堂
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人体の各部位を題材にしたアンソロジーです。
小説誌の創刊の他、フリーペーパーの発行も行っているそうです。